第7章 金曜日
MENキノコ人がそう言って黒いソレを渡してきたので、私は受け取ってよく見てみる。
確かに、質感はキノコの柄のような感じだった。だけどものすごく硬く、笠の部分がまるでツルハシのように広がっていて、一見キノコには見えなかったのだ。
「あ、ソレ毒キノコなんすけど、人間が素手で触って大丈夫なんです?」
「えっ」
私は驚いて黒いキノコを落としてしまった。ガンッと音がして黒キノコは床に落ちたが、壊れるどころか床の凹みもない。そういえばこの部屋は入る前から頑丈な金属で囲われていた。それは彼がキノコを使って暴れるから、とかだったのだろうか。
とにかく解毒を、と思ったが、私の先程黒キノコを持っていた手は爛れるどころかなんの痛みや刺激もなかった。まさか、遅効性なのだろうかと思ったが、そこにいるMENキノコ人が解説してくれた。
「黒キノコって、ぼんさんの毒キノコより強烈なはずなのに……効かない人間もいるんすね」
「え……毒が効かない人間なんているの?」
「たまにいるみたいっすよ。ここの博士はそういうのを研究していたんじゃないすか?」
「それは、知らなかったけど……」
MENキノコ人に言われて脳裏に過ぎるのは、この研究所を立ち上げた博士のこと。この一週間弱、あの博士に不審点が多いのはすでに分かりきっていることだった。そうなると、この特殊な彼らは特に危ないのではないか。私の心臓は早鐘のように打ち鳴った。
「……ここから脱出したい? MENさん」
私は、声のトーンを落として静かに訊ねた。
「そりゃあ当たり前っすよ。だから壊そうとしてたんじゃないですか」
「そ、ですよね……」私の声は自分でも分かる程緊張していた。「ここから、脱出しませんか?」
「え」
MENキノコ人は私の提案に驚いた様子で一瞬動きを止めた。だがすぐに動き出して床に落ちた黒キノコを拾い上げた。
「もちろん」
それからMENキノコ人は黒キノコを肩に担いだ。それを私は了承と見て、部屋の扉を開けた。どうぞ、とMENキノコ人を先に外へ出てもらう。
MENキノコ人はすぐに部屋を出た。他の四人のキノコ人も救わなくては。彼らは手乗りMOBと違ってほとんど人間の背丈程あるので、外に連れ出したとバレるのも早いだろう。急がなくては。