第15章 夏 十四日目
しかし、大きな変化は期待出来ないだろう。先輩が出社すれば、また私は居づらい毎日を送る事になるのだろうな。
そんな時だった。
「お前のせいで、お前みたいな愚図のせいで俺のキャリアに傷がついた。責任を取れ!!」
振り返った時、鬼の形相をした先輩が階段を下ろうとした私を突き飛ばした。空に投げ出された身体は、走馬灯の様にゆっくりと落ちて行こうとしていた。
が、急に現れた誰かに強い力で抱き寄せられその誰かと共に階段の手摺に激しくぶつかった。私の直接の痛みが無かったのは、その誰かが間に入って身を挺して庇ってくれたからだ。
鈍く唸る声に、私は驚いて状況を把握しようと誰かを確認して唖然とした。
「トーヤさん?」
現実で存在すれば、こういう容姿なのだろうと思えた見た目。でも、直ぐに何を馬鹿なことをと思いなおす。
「だ、大丈夫ですか?き、救急車呼びましょうか?」
「イタタタ、打ち身くらいだから救急車は大げさだ。それより、サクラに怪我は無いか?」
「いえっ、私に怪我は・・・えっ?私の名前・・・。」
「何だよ、俺の名前呼んでおいて今更だろ?」
「じ、じゃあ、本当に・・・。」
「俺だ。トーヤだ。状況を説明したいから、話せるか?って、おわっ!!?」
私はそのまま彼に抱き付いた。
「ぐっ・・・ちょ、ちょっと今は・・・背中が痛い。」
そう言えば、打ち身だと言っていた。オロオロする私を可笑しそうに目を細めながら、今度は彼から抱き締められた。
「俺としては、さっきの男も女神も一回ぶっ飛ばしていいと思う。でも・・・まぁ、最後にいい仕事したから女神の方は譲歩してもいいかもな。兎に角、ウチに来いよ。」
トーヤさんに手を引かれ、向かった先はある工房らしき建物だった。
「ここ、俺の工房。女神が用意してくれた。さ、中に入れ。二階が自宅だから。」
自宅と言った部屋のレイアウトは、雰囲気がゲームの私の部屋に似ていた。
「サクラの家の中に似てるだろ?俺も気に入っていたから、同じ様にして貰った。コーヒーでいいか?話しは長くなりそう・・・嫌、先に背中を確認してくれ。」
躊躇なく服を脱ぎ背中を向ければ、くっきりと手摺の痕の痣が出来ていた。
「き、救急箱はありますか?」
「あぁ、それならそこの棚の中だ。悪いけど、湿布貼ってくれ。ちょっと痛い。」