第15章 夏 十四日目
しかし、そう敷地から離れない場所で先輩に捕まってしまった。
「逃げるなよ、俺とお前の仲だろ?それに、俺はお前の為を思って言ってんだ。誰も、自分がゲームのキャラだなんて知りたくないだろうからな。一先ず、町に出て俺の世話をしろ。何なら、俺の嫁にしてやってもいい。悪い話しではないだろ?」
「そんなの・・・そんなの、悪い話しでしかないわっ!!」
「なっ!!?先輩の俺に向かって生意気なヤツだな。いいから、大人しく俺に従え。俺が直々に可愛がってやるって言ってんだ。」
あ・・・れ?
急に、先輩が直立不動で固まった。そう、ゲームの様に。
「もうっ、ホントせっかちねぇ。」
「えっ・・・まさか、女神様?」
「そうよ~。サクラちゃん、こんにちは。」
「こ、こんにちは。あ、あの・・・。」
「サクラちゃんのご褒美の為にこの世界に呼んだんだけど、ある事情があって縁のあったこの男も連れて来る事になったのよ。」
「どうして・・・。」
「これからの方が、本当のご褒美だからよ?」
女神様の言う意味が分からず、私は呆然としたまま。
「サクラちゃん、この世界で楽しんだでしょう?そろそろ帰る時間なの。」
「えっ・・・じゃあ、私・・・。」
「突然でごめんなさいね?でも、このままにしたらサクラちゃんの幸せが逃げちゃいそうだから。だから、向こうで大事にされなさいな。」
視界の景色がぶれて、気付いた時には元の世界の自分の部屋の中だった。
起き上がって、ゲーム機の画面を見れば女神様が手を振った。
「安心して、愛されなさい。じゃあね。」
画面が真っ黒になって消えてしまった。そして、カレンダーを見れば、あれからたった一日しか過ぎていなかった。
ボロボロと溢れ出す涙。
「トーヤさん・・・。」
ゲーム機を再起動する気にもなれず、私は一頻り部屋で泣き続けた。
翌週の朝。
習慣で目覚めて、習慣で通勤。しかし、あの先輩は体調不良で休みだと聞かされ一安心した。
習慣というのは凄いもので、今日も何ら変わらぬ一日を不都合なく終えた。あの世界では有り得ない都会の町並み。
家と向かう為、あの歩道橋へ来ていた私。階段を上り、歩道橋の下を走る車を眺めながらトボトボと歩みを進めていた。
上司には、詫びられた。聞き込みをして状況を把握するから、それまでは耐えてくれと言われた。