第15章 夏 十四日目
今日も、トーヤさんは工房へと行って、私は敷地内で畑仕事。出荷を終わらせ、新しい花の種を撒いていた。
すると、敷地に入る為の出入り口にある鐘が鳴り響いた。誰かお客さんかなと顔を上げれば、ルイ村長がいた。
「おはようございます、ルイ村長。何か御用ですか?」
「あぁ、おはよう。その・・・ちょっと話しがあってな。」
「何ですか?お話しって。」
柵の向こう側に、背中を向けたままの男性がいた。ルイ村長がその人を呼べば、こちらへと振り返った。私はその人を見て、驚愕した。
「その顔を見れば、サクラの知り合いってのは嘘じゃないってことか。」
「どうして・・・。」
「彼から聞いた時は驚いたんだが、サクラは彼と関わりがあったんだな。」
「そ、それは・・・。」
「久しぶりだな、江口。」
どうしてこの人がこの村にいるのか、理解できなかったが・・・間違いなく目の前にいるのは同僚の先輩だった。
「少し話したいんだが、二人にしてくれないか?」
先輩がルイ村長にそう言った。しかし、私は二人きりになんてなりたくない。元の世界とかこの世界とか抜きにして、あの時の出来事を鮮明に思い出したからだ。
「わ、私・・・。」
「お前、あの男と同棲してんだってな?いいのか?俺が全部バラしてしまっても。」
トーヤさんは、私が推していたゲームのキャラだ。それをこの人から聞かされて、どう思うだろう?ルイ村長ですら、私を怪訝そうな目で見ている。
「相変わらず、決断が遅い愚図だな。いいから、俺に付き合え。一先ず、俺と町に出て俺の言う通りにすればいい。」
「い、嫌です・・・。」
「お前の言い分なんぞ、どうでもいいんだよ。いいから俺に従え!!」
「ちょっ、キミはサクラと知り合いで少し話したいと言うからワシは案内したんだ。何故、キミがサクラを町へ連れて行こうとするんだ。」
「うるせぇよ。こいつは、俺がこき使って俺の為だけに生きればいいんだ。行くぞ、江口。」
「待ちなさい。サクラに無理強いするのは許容出来ない。」
「黙れよ、ゲームのキャラの分際で。作られた玩具は玩具らしく、大人しく黙ってろ。」
私は、その場から逃げ出した。頭の中は真っ白だ。彼に助けを求めたとして、ゲームの話しをされたら・・・。でも、今の私は他に頼れる人なんて思いつかない。それに、先輩に暴露されるくらいなら私から話したい。