第13章 夏 十日目
籠にいっぱいのオリーブを収穫しては、機材へと放り込む。
「この量のオリーブで、こんなにたくさんの油が取れるのはこの世界の七不思議の一つだなぁ。」
瓶詰二十本のオリーブ油が出来上がった。綺麗な色合いにホクホクする。
「そうだ、チーズはあるからトマトを夕飯分収穫してパスタに使おうかな。」
しかし、いざ畑に出て私は唖然。
「えっ・・・どういう事?どうして、さっきまであった茄子やトマトがないの?それにコレ・・・無理矢理もぎ取ったのか茎とかが傷んでる。誰かが盗んだ?」
そう言えばと、さっきへインさんから見せて貰ったメモにトマトも茄子も書かれていた。サア―ッと血の気が引いていく。
「ど、どうしよう・・・。どうしたら・・・そ、そうだ。トーヤさんに言われてたんだった。何かあったら相談しろって。工房に行こう。」
泣きそうになりながら、トーヤさんの工房へと向かう。彼の方は、突然駆け込んできた私に目を丸くしたが慌てた様子に何かあったのだと察してくれた。
「ト、トーやさん・・・畑が・・・私の畑が・・・。」
「サクラ、取り合えず落ち着け。ちゃんと話しを聞くから。何があった?」
「私の畑で収穫間近の野菜が・・・盗まれちゃった。」
「えっ?今朝まであっただろ。」
「オリーブ油を作っている間に、無くなってたの。大事に育てて来たのに・・・こんなの酷い・・・。」
取り乱す私を落ち着かせ、彼は一緒に畑へと戻った。
「これは酷いな・・・。急いでいたのか、無理矢理もぎ取ったってとこだな。葉や茎が傷んでいる。なぁ、サクラ。俺以外にこの畑の現状を知っている誰かはいないか?」
「えっ?えっと・・・あ、そうだ。へインさんが来たの。追加の小麦のことで。」
その他にも、メモに盗まれた野菜の名前があったことも話した。彼は私の手を引いて、へインさん捜しとなった。あちこちで素材を探し回っているであろうへインさんを見つけられたのは、想像より早くに戻っていた村役場だった。
直ぐに事情を話す。
「茄子とトマトを依頼した農家?それなら、マグだな。って、まさか・・・。」
マグとは、あの告白男の名前である。
「しかし、野菜一つ一つに名前を書いている訳じゃないし・・・追及するのは難しいな。俺もサクラの畑を見ているから、嘘じゃないのは分かっているけど。」