第12章 夏 五日目
「サクラ、相変わらず野生児並みだわ。」
「ノアさん、優勝おめでとうございます。」
「ありがとう。ローエンからはビギナーズラックだと言われたけどね。」
「それで、今回の優勝賞品は?」
「あぁ、紫陽花亭一週間分のお食事券。」
「うわぁ、いいなぁ~。」
私の時は、何故か原石だった。それはそれで、高価で売れるのだけど。それも結局は、イベントの材料で使う羽目となったんだっけ。
「あれ?トーヤさんは一緒じゃなかったの?」
「そう言えば・・・。」
キョロキョロと回りを見渡したものの、トーヤさんの姿が見えない。
「ん?何処からか、騒がしい声が・・・。」
「行ってみましょう。」
ノアさんと連れ立って騒がしい場所へと行けば、どういう状況なのかトーヤさんとあの告白男が私の干し物用として捌いた魚が入れあるバケツを取り合っている。
「何やってんだ、二人共。」
間に割って入ったのは、紫陽花亭のドーエンさん。
「いい歳した男二人で何やってんだよ。」
「こいつが、俺の獲物を横取りしようとしているんですよ!!」
「ハッ?横取りしてんのはお前の方だろうが。」
「そのバケツ、何が入ってんだ?見せてみろ。」
バケツの蓋を外して、一尾の魚を取り出し眺めている。
そして・・・告白男に拳骨をくらわせた。誰もの目が点となった。余程痛かったのか、告白男が涙目になっている。
「何するんですか、ドーエンさんっ!!痛いじゃないですか。」
「俺はお前が生まれた時から知っている。この魚の捌き方、お前が出来る訳ねぇだろうが。大方、サクラの物を盗もうとしたお前を、トーヤが引き止めようとしたんだろ。」
「そ、そんなの勝手に決めつけないでくださいよ。」
「なら、皆の前で更に恥さらすか?お前がそこまで言うのなら、同じ魚を用意してやるから捌いてみろ。」
「そ、それは・・・。」
「言い訳なんぞ、みっともないからするな。大人しく自分の行いを認めて謝罪しろ。それとも、村から追い出されたいのか?」
その場にへたり込んだ告白男。
「あの・・・どうして、魚を持って行こうと思ったんですか?」
「へっ?サ、サクラ・・・俺は、ただ美味そうだなと思って。」
「そうですか。じゃあ、それ差し上げます。」
「サクラ、いいのか?」
「はい。もう一つありますから。」