第11章 夏 一日目
「水遊びなんて、久しぶりだな。サクラの水着は布面積が少ないんだから、長い時間水の中でいるのはナシな?」
川の水は思ったより冷たい。でも、私は周りの自然ではなく、トーヤさんを見ていた。水も滴るいい男のトーヤさんに釘付けである。
しかし、川の水を侮っていた私をトーヤさんが見て顔色を変えた。直ぐに私毎浮き輪を引っ張って、川辺へと出た。
「唇が青くなってる。火の傍で温まった方がいい。」
上着を着せられ、火の傍へと行く。その背後から、私を抱き込むトーヤさん。
「ちゃんと暖を取れよ?」
「は、はい。」
「何だよ、緊張してんのか?ハグくらいいつもやってんだろうに。」
「そ、それはそうなんですけど・・・。」
「手も冷たくなっているじゃないか。」
トーヤさんの手が、私の手を包み込んでくれる。温かくて心地いい。
「俺の体温、分けてやるから。」
そう言って、私の唇にキスするトーヤさん。腕の中に擦り寄り、暫くの間、彼の温度を堪能していた。
「私の唇、元に戻りましたか?」
「ん?あ~・・・まだだな。」
「じ、じゃあ・・・もう少し、その・・・。」
「言われなくとも。」
彼の体温の心地よさに、つい甘えてしまって外だと言うのに抱き合いキス三昧。が、突然、彼の動きが止まった。
「トーヤさん?」
「・・・生殺し。」
「生殺し?」
「嫌、何でもない。今の状況を思い出しただけだ。このまま続けたら、間違いなく押し倒す。そろそろ撤収しよう。」
心の声が駄々洩れのトーヤさん。間違いなく押し倒すって言われた。私としては、初めてはトーヤさんとがいい。それに、いつ元の世界に戻されるかもわからない。
不思議と怖さは感じなくて、ただ、限られた時間なのかもしれないというこの幸福な日々の中で、少しでも傍にいたい彼を感じていたいと思ってしまっている。
手を引かれ、家へと帰る道すがら背の高い彼の姿を見ていた。元の世界に戻されたら、もうこんな時間は味わえない。
トーヤさんと恋人同士になって、まだ間がない。でも、私の気持ちは分かっている。元の世界では、こんな風に思えなかっただろう。
家に入り、彼は直ぐに着替える様に私に言った。大人の余裕と言えばそれまでなのだけど、私をいつだって気遣ってくれる。だから私は・・・彼に抱き付いた。