第10章 春 三十日目
一度、帰宅すればサクラが冷蔵庫に作物を詰め込んでいた。
「随分、冷蔵庫の中が潤ってんな。」
「あ、お帰りなさい。」
「ただいま。」
ナオトの影響か、サクラを引き寄せてキスした。やっぱり、可愛いな・・・なんて思いながらサクラの唇を貪っていれば、胸を叩かれる。どうやら、酸欠らしい。
「ホラ、しっかり呼吸しろ。」
「えっ?しっかり?」
「まだ、キスする時間くらいはあるだろ?嫌か?俺にキスされるのは。」
面白いくらいブンブンと首を振っている。分かりやすくて・・・安心する。逃げられない様に抱き締め散々貪った後、満足した俺。サクラは・・・少々涙目。
「サクラ?」
「は、はい。」
「俺・・・もうかなりサクラに惚れてる。」
「えっ・・・。」
「好きだ。」
「嬉しい・・・。」
「そうやって、俺の傍で笑ってろ。って、またキスするところだった。これじゃ、イベント間に合わないな。行くぞ。」
サクラはずっとご機嫌だった。
春の作物イベントは、あちこちから集められた作物が並んでいて試食会などもあって楽しめた。
サクラがサクラカブを見て、何やら考え込んでいる。
「どうかしたのか?」
「さっきのサクラカブの浅漬けが美味しかったんで、ウチでも作ろうかなって思ってました。」
「大丈夫か?あまり手広くやると大変だろ。」
「ウチで消費するくらいしか作りませんから大丈夫です。」
「サクラの叉焼も、住人から大絶賛されてるし無理するなよ?俺もアレは好きだけど・・・って、俺の為にいっぱい作ろとしなくていいからな?」
「えっ・・・。」
「ホント、俺が心配するから無理するな。な?」
「分かりました。」
そう返答したけれど、多分、俺の為に作るんだろうな。
「んっ、このキャベツの浅漬けも美味いな。」
「トーヤさん。」
「ん?」
「私、頑張りますね?」
「えっ?」
「他にも色々あるんで、トーヤさんが好みなもの教えて下さい。」
健気・・・と、言えばそれまでなんだが。農業やっているだけあって体力あるし、俺の為の行動力は半端ない。
「サクラこそ、何か好きなものはないのか?あ、俺って言うのはナシな?・・・って、言おうとしてたのか。何故、そんな残念そうな顔をする。前にも言ったが、サクラが俺を知ろうとしてくれる様に俺もサクラの事を知りたいんだからな?」