• テキストサイズ

牧場物語へトリップⅡ

第7章 春 二十日目


「サクラ、俺だ。家の中にいるんだろ?サクラが出てくるまで、何度でも呼び続けるぞ。サクラ!!おい、サクラっ!!!聞こえてんだろ?サクラっ!!俺だ、トーヤだ。顔を見せてくれ。サクラっ!!サク・・・。」

扉が開き、中から姿を見せたサクラ。数日前の姿から想像もつかないほどの焦燥ぶりに目を見張った。俺とは、目を合わせようとしない。

「って、扉を閉めようとするな。話しがあって来たんだ。長くなるから、中に入っていいか?」

サクラは少し思案した後、ドアノブを掴んでいた手を離した。どうやら、入っていいらしい。初めて家の中に入ったのだが、住み心地の良さそうな作りだった。サクラの好みが散りばめられた家なのだろう。

テーブル席を勧められ、サクラはキッチンに立ち飲み物を入れてくれていた。そして、少し緊張する俺の目の前に、一杯の果実水を出してくれる。

俺が好きなライムの果実水だ。それに気付いて、俺は何とも言えない気分になった。このまま時間を掛ければ、言いたいことも言えなくなりそうだ。なので、声を張って俺は謝罪の言葉を口にしながら頭を下げた。

「この前は、心無い言葉でサクラを傷つけて本当に悪かったっ!!」

しかし、サクラからの返答は何もない。恐る恐る顔を上げると、ただ、静かに声を押し殺して泣いていた。あんな愛らしい笑顔で俺を見たあのサクラが、感情を押し殺して泣いている。サクラは俺を責めたりもしなかった。だから、俺はそのまま身の上話をした。

「聞いてくれるだけでいい。俺は・・・・・町のある工房で働いていた。縁あって、そこの親方の娘と婚約する事になって後半年で結婚する時に、俺は町で賞を取った。その日を境に、俺の毎日は変わった。仕事が立て続けに入って、婚約者との時間が取れなくなった。そのまま式まで後一か月を切った頃、婚約者と同僚との浮気が発覚した。俺が構えない時に親身になって接している内にそういう間柄になったらしい。おまけに、腹には同僚の子を宿していた。あいつは、俺を責めたよ。俺が構わなかったからこうなったんだと。だから、このまま結婚しろと言われた。親方も娘を溺愛していたから、何とか俺と不倫を無かったことにして結婚させようとした。親方は、賞を取った俺を何とか囲い込んだままにしたいって思惑もあったんだ。何もかもが嫌になって、俺は工房を止めて婚約も破棄した。」

/ 87ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp