• テキストサイズ

彩雲の糸

第2章 2.一歩目


「お邪魔します……」
「お、来た来た」
 バレー用具の匂いが立ち込める。約2年ぶりに嗅いだ匂いに眩暈がした。

「今日見学に来てもらったさんです」
 澤村くんが3年生と1年生に説明する。そこには怖そうな監督もいた。威圧感が凄まじく、思わず深々と頭を下げる。
「よ、よろしくお願いいたします」
「ちょーーー可愛いっす! よろしくっす!」
 突然1年生らしき男の子2名に絡まれる。いきなり距離が近い。
「うわっ」
 私が思わず後ずさりしたところ、男の子2名をバインダーで殴りつけた女の子が現れた。
「清水です。マネージャーをやってます。今日はよろしくね」
「潔子さん! 今日もお美しいっす! 素敵っす! 殴られるのたまんないっす!」
 ……なんだか賑やかな1年生だな。この時点で既に少し疲れてしまった。

 私は体育館の端に椅子を出してもらい、練習を眺めていた。正直、女子バレーを見るよりかは気持ち的にはマシな気がした。
 高校の男子のバレーは迫力があった。あのサーブを受けたら腕が痛そうだなぁ、なんて思ったりしながら、ずっと黙って見ていた。
 話を聞くと、烏野高校はかつて全国大会に行くほどの強豪だった。それは、私も知っていた。だけど監督が退任してからは成績が下がってしまった。そんな折、その監督が再び復帰されたのだと言う。目の前の強面の御方がまさに、その烏養監督だ。
「スパルタだね。1年生、キツそう」
「そうだね、厳しくて有名だから」
 清水さんとそんな話をしていたところ、ボールがこっちに飛んできた。
「わ!」
 私は反射でオーバーハンドのポーズでボールを取ってしまった。

 オーバーで取って、すぽんと自分の頭上でボールをキャッチする。
 久しぶりに触ったバレーボールが懐かしくて涙が出そうになった。

「なんだ、お前、経験者か? ボール出しやってくれるか?」
 あろうことか、烏養監督直々に声をかけられた。
「い、いや、無理です。すみません」
「いいじゃない、やってきて。私も勉強になるから」
 清水さんに背中を押されてしまった。乗りかかった舟だ。私は覚悟を決めてコートに立った。
/ 63ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp