第2章 2.一歩目
(あぁ、懐かしいなぁ)
コートからの景色。ボールの感触。相手との距離感はこんな感じだったな……。
突然、モノクロだった視界が彩られる感覚になった。
私はセッターにボールを上げる。ただ、ボールを上げるだけなのに、それが「楽しい」と思えた。
よかった。バレーボール、嫌いじゃなかった。
涙がこぼれそうになるのを堪えて、私はボールを山なりに高く上げた。
帰り道、清水さんを交えた2年生5人で坂ノ下商店へ向かった。学校に続く坂の下にある商店だ。
「今日はどうだった?」
澤村くんがカップアイスを奢ってくれた。
「ありがとう。迫力がすごかった。高校の男子バレーってすごいんだね」
「バレー、やっぱり嫌いには見えなかったよ?」
次に東峰くんはサイダーを奢ってくれた。
「さすが経験者。ボール出しもスムーズだったよっ!」
さらに菅原くんがチョコレートを奢ってくれた。
「ありがとう。……ってこれ、お供え?」
たくさんのものを与えられて、お地蔵さんになった気分だった。
「澤村たち、マネージャーを探してくれていたみたいなの。で、これは必死のアピールだと思う」
最後に清水さんは私に桃味の飴をお供えした。
「……私さ、小学校からずっとバレーを頑張ってたんだ。だけど、自分の不注意で最後の中総体前に大けがをして、手術して、入院して。試合に出られないまま引退したんだ。リハビリが終わったのは、去年の6月」
「え……」
みんなの顔が突如険しくなった。
「高校は新山女子に行って、全国にも行きたかった。でも、リハビリをしても以前のように動ける可能性は100%ではないって話を聞いて……。そして、ケガをしたときの恐怖心が消えなくて、自分がバレーをしているイメージが全然湧いてこなくて……」
無理やりしまい込んだ過去をひっくり返すと、自然とポツポツと涙がこぼれた。下を向くと、アイスを持っていた手の甲に涙が落ちる。
「努力が無駄だったと思っちゃって、いろんなことがバカらしくなって、プツンと糸が切れちゃったの。そして逃げた。バレーを辞めたの。いろんな人を裏切った。だからバレーは生活の中から排除して二度と関わらないようにしようと思っていたの」