第10章 10.彩雲の糸
その後の話。
卒業したら、徹はプロの道を目指す。ブランコ監督の元へ行くことを宣言していた徹とは遠距離恋愛となることは以前から決まっていたし覚悟もしていた。
だけど、まさか卒業後すぐに徹がアルゼンチンに行くことになるとは。
ブランコ監督がアルゼンチンに帰国してしまい、卒業後、徹はアルゼンチンへブランコ監督を追いかけざるを得なくなったのだ。
徹は青城バレー部が企画してくれた送別会で派手に送り出され、今日は私と高校生最後のデートをする。
明日、徹はアルゼンチンへ旅立つ。アルゼンチンがどんなところなのか、本やネットで調べられる以上のことは分からない。これから徹に訪れる試練は、私が想像できる範囲を軽く超えて、過酷であることは間違いないのだと思う。
慣れ親しんだ仙台の街をゆっくりと歩く。仙台に桜が咲くのはまだ先で、春の快晴とはいえまだ肌寒かった。
「結局ここなんだよな」
夕方、私たちは以前一緒にバレーをした公園にやって来た。まだボールが置いてあり、私たちは自然にそれを手に取った。
私たちはポン、ポンとパスをする。徹と付き合い始めてからは、一緒にロードワークをしたりと、私も大学でバレーボールをする準備をしてきたため、体力や筋力が幾分かついたと思う。
「今度会ったら、殺人サーブを教えてあげよう」
「わー嬉しい」
「ちょっと棒読みなんだけど! プロバレーボール選手になる予定のこの及川さんから教われるんだからもっと喜んでよ!」
「……ほんとに、楽しみにしてるよ」
急に真面目な口調になった私に、徹は調子を狂わされたようだ。
「……ちゃんと理学療法士になったら、将来は徹の住むところへ追いかけて行くから」
「おおっ。スペイン語も英語もしっかり勉強しておくんだよ?」
「その覚悟だから! アルゼンチンでも資格を取って、いずれは徹のチームでスポーツリハビリトレーナーになるからね」
「頼もしいな。ほんと、俺待ってるから」
徹はくしゃっと笑って私の頭を撫でた。
あぁ、やだな。もう気軽に会えなくなるんだ。この笑顔が見られなくなるんだ。
考えないようにしていたのに、否が応でも徹との別れを意識してしまう。