第10章 10.彩雲の糸
徹のように選手として成長したいという気持ちと、今更無理だろうという気持ちでせめぎ合っていたけど、今はちゃんと自分を受け入れられている。中学校の体育館を見ても穏やかな気持ちでいられている自分がここにいる。それは、烏野のみんなのおかげ。そして、徹のおかげ。
「の足のケガもだけど、それよりも心のケガの方が心配だった。だけど、もう大丈夫だね」
徹が私を見下ろした。そして目が合う。試合に負けた昨日の今日でも、優しい眼差しをする徹に心が締め付けられた。もう、徹は次を見据えているのだ。
「今までたくさん心配してくれてありがとうね。自分を誇りに思えない日が続いてたけど、今はマネージャーも、将来やりたいことも見つけた。バレーも再開しようと思えた。それは烏野の環境もだけど、徹のおかげだよ。だから、これからは、私が徹の身体も、メンタルも支えていきたいと思ってる」
「それはさ、理学療法士として……?」
徹は困った顔をして笑っていた。
「……だから」
私は徹の胸元を引っ張って、背伸びをした。
触れるだけのキス。
初めてだったから、あんまり上手じゃなかったかもしれない。
「……へ……?」
徹が目を丸くして思いっきり間抜けな顔をしていた。こんな表情もするんだ。
「だから、こういうこと!」
自分でも驚いている。心臓がバクバクいっている。なんて大胆なことをしたのか。私は顔が赤くなっているのを悟られないように、俯いた。
「え? 嘘でしょ? ちょっと待って」
「な、何……」
突然、私は抱き寄せられる。徹の顔が近い。これでは心臓が持たないと咄嗟に判断し、手で徹を押し返そうとしたけど、力では敵わなかった。
「ちゃんと言葉にして。の口から聞きたい」
「う……だから……」
恥ずかしすぎる。さっきの大胆な行為だって今となっては恥じているのに、これ以上は……。それでも、私に真っすぐに向き合ってくれた徹には真摯でいたかった。
「だから、好きなの。私も……」
身体から煙が出そうなほど熱かった。心臓が異常なほどに鼓動を繰り返す。
「うん、俺も好き」
徹はにっこり笑って、顔を見られまいと下を向く私の顔を持ち上げて、キスをする。
私はひたすらに徹からの熱を受け入れることに精一杯だった。