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彩雲の糸

第10章 10.彩雲の糸


「あ、言い忘れた牛島や飛雄のいるチームは応援しないでよね」
「……ちっさ」
「男に言い寄られてもちゃんと断るんだよ?」
「当たり前じゃん……」
「……泣かないでよ。笑ってよ」
 自然と涙が流れた私の頬を、徹は困り顔で拭ってくれた。
「徹だって、泣きそうだよ」
「うるさい。泣いてない」
「目が赤いじゃん。泣いてるって」
 小学生みたいな言い合いをして、顔を見合わせて笑った。
「うん、泣いてるね」

 お互い、泣いていることを認め合い、どちらからともなく、抱き合う。
「……もう少し、一緒にいたい」
「うん……」
 私たちは当たり前の日常という最後の日を大切に過ごした。
 
 そして翌日、私は仙台駅まで見送りをする。駅にはたくさんの人が徹を見送りに来てくれることになっていた。
 私たちは駅までの道を一緒に歩く。ガラガラとスーツケースの音が私の繋がれた手にも振動した。
「アルゼンチンに着くのに2日もかかるんだね」
「うん。未知すぎて怖い」
 昨日はたくさん泣いたから、今日は笑って送ってあげようと思っていた。この時間を大切なものにしようと、繋がれた手に力を込めた。

「あ、雲見て」徹が突然空を指さした。
 空一面の雲たちが虹色に輝いていた。非現実的な、夢のような光景に感嘆の声を漏らす。
 この雲は何かで聞いたことはあったけど、実際に見るのは初めてだった。
「彩雲……綺麗だね」
「彩雲?」
「いいことのある前兆なんだって」
 虹色の雲が空いっぱいに広がる。スピリチュアルはあまり信じてはいないけど、天や宇宙からのメッセージなんだとか聞いたことがある。
「へー。天国ってこんなところなのかな」
「そうなのかもね。彩雲って天からのメッセージでもあるみたいだよ。このままで大丈夫、いいことがあるよ、頑張れ、っていうね」
 しばし彩雲を見つめる。旅立ちの日に珍しい雲が見られるなんて、幸先がいい。きっと、天も徹を味方してくれている。
「じゃあ、うんと頑張らないとな」
「うん! うんと強くなった徹に会うのを楽しみにしてる」
「も頑張れよ」
「もちろん!」
 私たちは笑顔で拳を突き合せた。
 待っててね。大学でたくさん勉強して、大好きなバレーも楽しんで、学んで、徹の隣で一緒にバレーの夢を見られるように頑張るから。
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