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彩雲の糸

第10章 10.彩雲の糸


 菅原の活躍もあり、烏野が先制していたが、負けられないのは白鳥沢も同じだった。そんな時だった。
「月島……!?」
 月島が牛島のスパイクを触ったときにケガをした。
 騒然とする周囲。冷や汗をかいた。血が流れ、とても痛ましい。
 私は急いで月島を医務室へ連れて行く。
「ちゃんと時間稼いでよ!?」
 月島はそう言い放って私に引っ張られて行く。途中、月島のお兄さんに会い、いつものように月島は自虐と皮肉を言ったものの、内心はものすごく悔しそうなのが印象的だった。
「大丈夫、みんな強い。戻ったら試合が終わってたなんてことは、ないよ。今はみんなに任せよう」
「はい……」
 私も、そう信じるしかなかった。月島は烏野の守備の要。早く試合に戻してあげたい。
 医務室で指の消毒とテーピングを施してもらう。しかし、脱臼した小指を月島は痛そうにしていた。
 本当は試合に出さない方が賢明な判断だけど、ここ一番の勝負で後悔はさせたくなかった。何より、月島はコートに戻ったあとのシミュレーションをし、ずっと集中していた。
「月島、戻ろう。コートに!」
「はい!」

 コートに戻った時はデュース。白鳥沢のマッチポイントだった。
 飛雄も月島も戻り、烏野に万全の体制が戻った。いよいよ最終局面となる。
「くれぐれも気を付けて……!」
「はい!」
 仲の悪かった飛雄は月島とも連携が取れている。この短期間で、烏野は本当に良いチームになったと思う。仲が良くなったわけではなく、信頼関係だ。それでいいと私は思う。

 最後の攻防。壮絶なラリーが続く。死に物狂いで牛島に挑むみんなの姿は、もう涙なしには見ていられなかった。もうとっくに体力の限界を超えている。限界のその先で彼らは戦っているのだ。
「あと1点!!」
 どうか、どうか……。このチャンスを勝ち取って。古豪の復活という歴史の1ページをみんなと一緒に刻ませて。
 そしていよいよ、最後の攻撃――。
「日向―――!!」
 ドン、という音と共にボールが落ちた。
 時が止まる。静寂が訪れる。
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