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彩雲の糸

第10章 10.彩雲の糸


 白鳥沢戦の朝。いろんなことを考え込んでしまい、あまり眠れなかった。これが選手だったらかなりの危機的状況だ。
 テレビ局などたくさんの取材陣が入り、決勝戦は雰囲気がまるで違う。それに加え、白鳥沢のたくさんの応援団たち。みんな、場の空気に飲まれそうになっていた。だけど、選手たちはコートに入るといつも通りになり、その成長を誇らしくも思う。
 飛雄の様子もいつも通りに見えた。昨日の青城戦のときの方がよっぽどギスギスしていたものだ。相手が徹だったからだけど。

 左利きの牛島のサーブは威力だけでなく、回転違う。劣勢を強いられた烏野だったけど、西谷を始めとして、みんながボールに徐々に慣れだした。
 1セット目は落としたものの、2セット目は攻守共に烏野も機能し始め、デュースとなる。
  合宿以来少し意識の変わった月島はずっと攻略法を考えていたように見えた。常に冷静に。怖いくらいに。
「ブレイクして……お願い」
 なかなか決定打に繋がらず、こう着状態だ。デュースのままそれぞれに点数が加点され、点差は開かない。
 だけどついに、月島が相手の僅かなほころびを見逃さずに、決めた。あの牛島相手にドシャットのブロックを決め、2セット目を取り返したのだ。
「月島―――――!!!」
「よっしゃぁぁぁあ!!」
 月島は夏の合宿から変わったのは私も、みんなも知っている。あんなにつまらなそうにプレーをしていたのに。ドシャットを決めて雄叫びを上げた姿に感動で胸を打たれた。
 その後の3セット目はあっという間に白鳥沢に取り返されるものの、月島中心にブロックが機能し防御力が上がっていった。
 しかし、ここに来て飛雄のスタミナ切れの色が見えて来た。誰よりもボールに触り、敵ブロッカーからのプレッシャーを受けているセッターだからこそだ。
 それでも飛雄は執念でやり切った。4セット目は烏野が取り、ついにファイナルセットを迎えた。
「行ける、行けるよ! みんな、頑張れ!」
 私に出来ることは、もはや応援をすることしかない。疲労の色が隠せないみんなに作っているドリンクは、アミノ酸やクエン酸が入ったものだ。少しでも回復しますようにと願いながら手渡していく。
 ファイナルセットは飛雄を下げて菅原がセッターとしてステーティングメンバーに入る。飛雄を少しでも休ませるという目的だ。
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