第9章 9.最後の戦い
日向のスパイクが決まったのだ。
26対24。烏野が勝利した。ついに青城に勝った。
徹は日向に反応していた。だけど、チームメイトの飛んだブロックが徹の目を遮り、徹はボールが拾えなかったのだ。
「やった……!」
みんなが抱き合って喜び合う。ついに、ついにやった。
これまで、みんながたくさん練習してきた姿を思い返すと、涙が出た。この場にいられたことに感謝すらした。
だけど、私は勝利の喜びと同時に、徹の姿を探していた。
徹は今日が高校生活で最後の試合となった。今日で引退となるのだ。
徹はネットを挟んで飛雄と静かに会話を交わしていた。
「お疲れ、みんな!」
(お疲れ、徹)
私は烏野にも、負けて涙する青城にも、惜しみなく拍手を贈った。
試合が終わり、荷物を急いでまとめ、駆け出そうとしたとき、呼び止められた。
「行くんですか?」
「飛雄……」
試合後、ユニフォームの上にジャージを羽織った飛雄が私の後ろに立っていた。
「俺、勝ちました。及川さんに勝ったとは言えないですが、青城には勝ちました」
「うん。ちゃんと見てたよ。嬉しいに決まってるよ」
飛雄は試合に勝利したというのに、苦しそうな表情を見せた。
「俺のこと、男としてみてください」
「……!」
でも、気づいてしまった。私は烏野のマネージャーなのに、勝って嬉しいはずなのに、今一番に駆けつけたい人がいる。
「ごめん、飛雄。徹は大切な人だから、今、声をかけずにはいられない……」
私は踵を返し、徹を探しに走り出した。そんなに広い会場でもないから、きっと見つかると信じて走る。
私が徹を見つけたのは、徹がちょうど部員に指示を出しにロビーへ向かっているときだった。
「徹!」
「……」
試合のときとは違う、柔らかい表情。
「負けちゃったよ」
徹が降参、と言わんばかりに両手を上げていった。私は徹のその両手を取り、下へ降ろした。
「え?」
徹は思いがけない私の行動に赤面した。