• テキストサイズ

彩雲の糸

第9章 9.最後の戦い


 3セット目も拮抗していた。むしろ、16番がチームに完全に溶け込んだようだった。
 先に20点代に乗ったのは青城だった。
 長いラリーが続く。烏野のみんなは青城のサーブもスパイクにも、だんだんと慣れて来てはいた。でも、徹のあの爆弾のようなサーブで点を次々とかっさらい、先に青城がマッチポイントを迎えてしまった。
 それでも、相当なプレッシャーの中、高い集中力でどうにかボールを繋ぐ。ようやく徹のサーブは切ったものの、依然として青城のマッチポイントであることに変わりなかった。
「絶対に負けない」という強い意思を感じる徹の表情。

 私はこのとき何となく思った。
 徹の笑顔の下にあるものを。
 これまでたくさん苦しんできた自分に対する怒りも、絶望も、悔しさも、バレーへの情熱と努力だけで乗り越えて、それを笑顔で隠しているのだ。
 もちろん、徹は素でヘラヘラしてるところもあるけど、チームが円滑に回るように演じている部分もある。それで人との距離感を測っている部分もあるし、彼なりの信頼関係の築き方でもある。そんな気がした。
 だから、今みたいな後のない勝負をしている時、仮面は剥がれる。本来の徹が、血の通った徹が現れる。バレーが大好きな、バレー馬鹿になるのだ。

「菅原、最後の勝負だ」
 ここで菅原が再び投入され、デュースとなった。
 ここからは精神力との戦い。祈る気持ちで応援する。次は烏野がマッチポイントとなる。
「あと、1点……!」
 集中力の高さは青城も一緒だった。見ているこちら側が辛くなるようなラリーが続く。
 そんな中、徹がスーパープレーを見せた。コートの外に飛んだボールを、絶対に繋げると、徹はコート外へ走りながら岩ちゃんに宣言した。
 徹はコート外に飛んだボールを追いかけ、ジャンプをしながらボールを受け、コート内にボールを返した。
「す、すごっ……」
 思わず見とれてしまう、コート外からの超ロングセットアップ。針の穴を通すようなコントロール。もうそれはプロの域だった。
 だけどこれもスパイクは決まらず、ラリーとなる。一連を見守っていた私は呼吸を忘れていたことをようやく思い出し、どっと汗をかく。

 この勝負、どちらが勝ってもおかしくない状況だった。しかし、ついに、そのときはやって来た。
/ 63ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp