• テキストサイズ

彩雲の糸

第9章 9.最後の戦い


 16番はいきなり他の選手のボールを奪い、とんでもないスパイクを決めた。運よくアウト判定だったけど、その威力に周囲はしんと静まり返った。
 あんな選手を投入して、チームは乱されないのだろうか。安定性が売りの青城に混ざった異物。そこまでして青城は状況を変えたかったのか。だけど徹も開いた口が塞がらないようだった。やっぱり、16番は諸刃の剣であり、起爆剤なのだろう。
 第1セットは烏野が取った。だけど、第2セットは開始早々投入された狂犬と呼ばれる16番の選手が徐々に溶け込み、活躍を見せていく。徹がセッターとして完璧に狂犬を使いこなして見せた。
「なかなかブレイクしないな……」
 徹が何本か外してきた殺人的なサーブの照準をだんだんと合わせて、ついに決めた。ここで何か打開策が必要だということで、コーチは菅原を投入する。
 菅原は16番を狙ったサーブをし、攻撃力を削る。そして、ツーセッターによる攻撃を繰り出していく。
「菅原ナイッサ―!」
 しかし、対応の早い青城はこれもまたクリアする。16番に攻撃を集める青城は調子を上げていく。
 このまま2セット目を取られてしまうのか、というところで山口がピンチサーバーに入った。これまでにたくさん練習してきた山口。悔しい思いをたくさんしてきたのも知っている。そんな山口が己に打ち勝ち、決めてくれた。
「山口―!!」
 これまでの山口の努力を知っているメンバーたちは、セットを取ったときかのような喜び方をして、山口を称えた。その後も山口の活躍もありデュースに持ち込んだが、惜しくも2セット目は青城が取った。
 誰かが言っていた。「青城は及川だけが強いチームだ」と。だけど、そうではない。確かに、徹のセットがスパイカーの力を引き出しているに違いないが、チームとしては完成されていて、非がないと思う。

 私はファイナルセット開始前に急いでタオルとドリンクを選手たちに手渡す。
「飛雄。はい」
「ありがとうございます」
 飛雄が汗を拭く。滝のように流れる汗を見て、戦いの熾烈さを思い知った。
「絶対勝って!」
 私は飛雄の背中を叩いて応援した。
「はい!」
/ 63ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp