第1章 1.夢の終わり
「だって、これからリハビリが1年続くんだよ? 高校入学までに足は元に戻らないし、元に戻るのは100%ではないらしいし。それに、中3のみんなは引退してもこれからも自主トレとかするでしょ? その間に私がすることは日常生活で足を動かすための練習だよ。だから、相当な差が出るし……」
私は辞めるための理由をペラペラとまくし立てた。
「だからって、諦めるのはらしくないよ。こんな形で辞められるのは、嫌だ」
「ごめん……というか、疲れた。3年間棒に振って、みんなにも迷惑かけて。自分がバカすぎて嫌になってる」
しんと静まり返った部屋の中、カラン……と、グラスの中の氷が溶ける音がした。
母は黙って部屋から出て行ってしまった。それがまたチクリと心が痛んだ。
今、私は徹も、母をも投げやりな言葉で傷つけている。その自覚はあったけど、どうにも自分を抑えられなかった。
「今はバレーをやっている自分が想像できないの。だから、ごめんね」
すごく痛かったし、手術も怖かった。リハビリだってしんどい。もう、あんな思いをしたくない。
踏まれてもへこたれないで伸びようとする雑草のように強くありたい。今までバレーで優勝をしたことはなかったけど、そんな雑草精神で頑張ってきたつもりだ。だけど、私はもう根っこを奪われた雑草だった。
徹が返った後、母とリハビリに向かう車の中、私は謝った。
「ごめんね。応援してくれたのに」
「ううん。それよりも、自分を責めないでね」
「それは……無理だよ」
母も昔はバレーをしていた。私がバレーを始めたのは母の影響だ。だから、母は私のことを心から応援してくれていたのだ。
「……、まずは心と足、回復させなきゃね」
「……後で徹にもちゃんと謝っておくね」
ごめんね、お母さん。こんな形で裏切ってしまい申し訳が立たなかった。
その後、学校に復帰した。監督や部員ひとりひとりに謝り、心配してくれたことに感謝を述べた。飛雄にも、徹にも。
引退だからと、後輩たちからもらった色紙は見る気にならず、もらった日にそのままクローゼットの奥底に閉まった。