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彩雲の糸

第8章 8.トライアングル


 徹は困った顔で笑った。笑顔の下に何かを隠していそうな徹だけど、今日はちゃんと本音だ。思ったよりも、私のことを思ったよりもちゃんと好きでいてくれていることに、嬉しさもあるけど、自信がなくて受け入れ難く感じてしまう。
「その言葉信じていいのかな……」
「当たり前じゃん!」
 進路も、マネージャーも、これから再会する予定のバレーも頑張りたい。その気持ちは本当だけど、すぐにいっぱいいっぱいになる私は自信なんか全然ないのだ。
 かくして、返事は再延長となった。「俺がおじいちゃんになる前には返事ちょうだいね?」と徹は冗談を言ってくれた。

 帰り道、ケヤキ並木を再び歩く。
「徹はすごいね。プロの道はすごく厳しいのに。どんどん前に進んで行くね」
「だって、うんと進んでるよ。理学療法士、なれるといいね!」
「うん、そしたら、これからもバレーに関わっていける。プロになった徹だって支えられちゃうかもしれない。まぁ、ケガはしないで欲しいけどね」
「頼もしいなぁ」
 本当に、ケガはしないで欲しい。せめて、大ケガだけでもいいから回避して欲しい。私は徹の右膝を見つめて祈った。

 バス停に向かう途中でスポーツ用品店を見かけた。用はなくても、ついつい中を覗いてしまう。すると思いがけない人を発見した。
「ねぇ、あれって」
「飛雄……?」
 店内の飛雄と目が合った。ちょうど会計を済ませていたところだった。
「さん……と及川さん」
「こんなところで……」
 飛雄の紙袋を持つ手に力が入る。
「及川さんと付き合ってるんですか……?」
「え、いや――」
 否定しようとしたとき、徹が私の言葉を遮った。

「は渡さないからね、飛雄ちゃん!」
「……!!」
 飛雄の夜空のような深い藍色の瞳が大きく見開かれていた。
「ちょっと、誰のものでもないよ!」
「えー、怒らないでよ!」
 徹をポカンと叩いて怒っていると、やがて飛雄が口を開いた。
「俺だって、さんのこと、好きなので!! 渡しません!!」
「!?」
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