第8章 8.トライアングル
見て見ぬふりをしようと思ったけど、無理そうだ。母の気持ちは言葉がなくても伝わった。私はもらい泣きをしてしまい、涙が止まることなく流れた。
「大学では、勉強もだけど、バレーもやりたい。次は選手として。いいかな?」
「もちろんだよ。中学で糸が切れたように塞ぎ込んでいたが、今また糸を紡いでいるのが、本当に嬉しい……」
今から進路を変えることなるため、履修している科目で受けられる大学、偏差値、そしてバレー部の活動実績があるところを鑑みると、東京のとある1校であることを説明した。両親は上京することについても快諾してくれた。
「本当に、ありがとう。頑張るね」
父が私の頭をなでて気恥ずかしい。だけど、その気持ちが嬉しかった。
リハビリをただのリハビリではなく、スポーツに復帰することを支援するリハビリへ。過去の自分を救えるような人になりたい。
進路のことを親に伝えたことで気持ちはすっきりした部分もあったが、徹のことはまったく結論は出なかった。
翌日の部活中もふとした時に徹のことを考えてしまう。そんな集中力を欠いた私は当然周りに迷惑をかけた。サーブやスパイクが飛んできても、気が付くのが遅くなりボールが顔や頭に当たりそうになることが何回かあった。
「、大丈夫か?」
「あ、あはは……ごめんね、大丈夫」
澤村が心配している。私は気合を入れ直すために思いっきり両頬を叩いた。その時、バチンと音を出したせいか、飛雄とも目が合った。
真剣に部活をやっている人たちの前で何たる失態。負い目を感じた私は、ヒリヒリする頬を押さえながら、つい目を逸らしてしまった。
その後、春高の一次予選を突破し、無事に10月の代表決定戦に駒を進めることが出来た。合宿で強豪に揉まれて、みんな強くなったのだ。後日、夏休み明け後の週末に行われた音駒で合宿でも、以前のような負け方ではなく、かなりいい勝負をするようになってきた。
夏休みが明けてからは、いよいよ受験も本腰を入れなくてはならなくなり、担任の先生からは相変わらず心配されていた。進路変更もしている分、尚更のことだ。部活後の受験勉強はきついものがあった。澤村や菅原の2人も受験組。彼らはもっときついだろうから、あまり弱音は吐けなかった。