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彩雲の糸

第8章 8.トライアングル


 お風呂の中で今日のことを思い出していた。徹にいきなり抱きしめられて、告白された……。
「どうしよう……」
 普通、あんなイケメンから告白されたら、誰だってOKしたくなるだろう。いや、遊んでいそうだし、女慣れしていそうだし、断る人もいるか……。
「昔からチャラチャラしてるし、女の子たちに囲まれてるし、いつも岩ちゃんたちに怒られてるし……」
 でも、誰よりも練習して、誰よりも努力して、天才選手と渡り合う徹。中学から白鳥沢に負けっぱなしなのに、それでもいつも前を向いてみんなを引っ張っている。
「いい所、いっぱいあるんだよな……あーーーもう!!」
「、うるさい!」
 浴槽でジタバタしていたところを、母に怒られた。
「……私の何が良かったんだろう……」
 浴槽に頭まで浸かり、外部の音も視界もシャットアウトして考えてみても、答えは出なかった。一度も逃げずにバレーと懸命に向き合って、見た目も性格も華やかな徹に私なんかじゃ不釣り合いなのは明白だった。

 お風呂から上がり、リビングに行くとはちょうど両親がいた。もうひとつ、片付けなくてはならないことがある。徹のことはさておき、こちらは早く伝えたかった。
「お父さん、お母さん」
「ん?」
 二人が振り返って私を見た。ちょっとだけ緊張して、身体が硬くなった。私は軽く息を吸って吐く。
「やっぱり、私理学療法士になりたい」
「り、理学……?」
 母が目を見張る。父も一瞬驚いたが、私に静かに「どうして?」と理由を聞いてきた。
「私みたいに、ケガでバレーを諦める人を救いたい。メンタル面でも、リハビリでも。それにケガの予防にも働きかけてあげたいなって、最近マネをやってて思ったの」
「……そう」
「それにスポーツリハビリトレーナーとしてバレーチームに携わることもできるみたいなの」
 少しの間沈黙が続く。私には怖い沈黙だった。
「ま、まぁ、私は、バレーをまたやりたいって思えるまでに3年かかった。もっと早くそう思えていたら、きっと人生は変わっていたのかもしれないけど……え……?」
 母の目には涙が溜まっていた。
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