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彩雲の糸

第6章 6.小さなきっかけ


 急にギクシャクする私たちの間にお構いなしに西谷は「俺のほっぺも拭いてください!」と割り込んできた。
「OKOK、拭いてあげる」
 私は思いっきり西谷の顔面をゴシゴシと拭いてあげた。周囲はどっと笑い声をあげた。助かった。飛雄がこれまでに見せたことのない表情を見て、ものすごく照れたことは誤魔化せた。
 飛雄は私の2つ下の男の子。小学生のときから知っているし弟みたいなものだ。だから、口元に付いたタレくらい拭くものだ。
 弟だと思っていたから拭いてあげたのは違いないけど、妙な意識をしてしまい、恥ずかしくなった。
 
 夜、宮城に戻り、私たちは解散した。仙台の夏の夜は涼しい。心地よさと疲労マックスであくびが止まらない。
「今日は受験勉強サボってもいいよね……」と独り言を漏らしたところ、「俺もそうする」と、菅原が後ろからあくびをしながら返事をした。
「菅原。お疲れ様」
「お疲れ。今日は勉強なんて無理だよな」
「分かる……眠い」
「ねぇ、ってどこの大学行くの?」
「んー。県内の予定だったんだけど、変えるかも」
 この合宿で芽生えた感情。まだその正体をはっきり掴めなかったけど、何となく、適当な、無難な学校に入ろうとしていたことを改めたくなった。
「そうなんだ。心境の変化?」
「まぁねー。みんなが変わっていってるようにね」
 菅原がニッと笑った。このいたずらっ子っぽい笑顔は菅原らしい。
「影山さ、にやたらと話しかけるのって、何でだろうね?」
「え? そう? 元々知り合いだったからね」
「ふーん? ほんとにそれだけかなぁ」
「そうだよ」

 そうじゃなきゃ、おかしい。
 私と菅原は日向と帰って行く飛雄を後ろから見つめた。随分と背中が大きくなったものだ。みんな変わっていく。それを受け入れていく。それでいいと思った。
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