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彩雲の糸

第6章 6.小さなきっかけ


 合宿6日目。今日も飛雄は仁花ちゃんとトスの居残り練習をしていた。すっかり汗でびっしょりのTシャツ。たくさん練習していたのだろう。そんな様子を体育館の外から見守っていたところ、飛雄と目が合った。
「お疲れ様。どう? 調子は」
「うーん。掴めてきた感じはします」
「そっか。すごいね!」
「さんたちも。いろいろありがとうございました」
 コーチや徹の言葉で、飛雄もまた変わろうとしている。天才の努力ほど怖いものはない。頼もしい成長のために一役買えたなら、光栄なことだ。 
「特に仁花ちゃんはたくさんボール出ししてくれたからね。感謝は彼女にね」
「え? とんでもないですっ!」
 仁花ちゃんは照れて笑った。彼女も何かの役に立てて、きっと嬉しいんだと思う。
「明日完璧な速攻を見せますから」
「ふふ。楽しみにしてる」

 翌日、梟谷との最後の練習試合、ついに飛雄と日向の新たな速攻が完成した。
「やったぁ!」と、仁花ちゃんがぴょんぴょん跳ねて心から喜んだ。あっという間に新しい速攻を完成させたふたりに私は拍手を贈った。
 結局は負けてしまったが、今回も確実に実りある合宿だった。

 その後は、お楽しみのBBQ。野菜や大量の肉を用意し、選手たちに振る舞う。肉に群がる男子たちはまるで猛獣のようだった。そんな男子達に仁花ちゃんは縮こまって怯えていた。小さな仁花ちゃんを囲う巨人たちに、申し訳ないけどちょっと笑ってしまった。
 私は仁花ちゃんのために、男子たちの巨人密林をかいくぐって食料を調達に行こうとしたところ、飛雄に話しかけられた。
「お疲れ様っす」
「お疲れ。速攻、決まったね」
「全部は決まらなかったですけどね」
 ふと、飛雄を見ると、口元に焼肉のタレが付いている。かわいい。
「飛雄、口元にタレ付いてる」
 私はタレの付いた箇所を自分の口元に指を指して教えてあげた。だけどなかなか上手く拭けない飛雄に痺れを切らし、持っていたウェットティッシュで飛雄の口元を拭いた。
「!!!?」
 飛雄は耳まで真っ赤になりたじろいだ。そんな飛雄を見て、私まで顔を赤くする。
「てめぇ! この野郎! さんに何拭いてもらってんだ!」
 田中と西谷、そして山本くんが物凄い勢いで飛雄に向かって怒鳴る。おにぎりのご飯粒が飛雄に飛んだ。
「ご、ごめん。私が軽率だった……」
「い、いえ……」
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