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彩雲の糸

第6章 6.小さなきっかけ


 武田先生が東京への合宿の話を取り付けてくれた。その前にクリアしなくてはならない期末テストは個々の課題として頑張ってもらい、私と潔子ちゃんは次世代のマネージャー探しを始めていた。
 もう6月なので、今更部活に入ってくれるような人は、そうなかなか見つからない。だけど、マネージャー探しから1週間後、小動物のように小さくて可愛らしい女の子をゲットした。名前は谷地さんという。
 彼女は体育の授業のバレー以外で、本格的なバレーを見たのは初めてと言い、見学ではその迫力にとても驚いていた。別の意味でも、田中と西谷の元気さにも驚き、図体の大きい男子たちに怯え、いろいろと挙動不審だった。
「自分から進んで何かやったりとか、逆に何かに必要とされたりとか、なかったんです。だから一生懸命誘ってくれて、すごく嬉しかったです」
 そう言ったものの、彼女は迷っていた。

「私はもともとバレーをやっていたんだけど、怪我をしてからバレーから離れたの。だけど2年生のときにマネージャーに誘ってもらって、バレーが嫌いじゃないってことに気づかせてもらった。それにマネージャーって、意外と楽しいと思えるし、今では勇気を出して始めて良かったと思ってるよ。やってみて気が付くことってあるんじゃないかな」
 更衣室で着替え中、谷地さんに自分の入部のきっかけ話をした。潔子ちゃんもそれに応答する。
「私、もともとスポーツはやってたけど、バレーもマネージャーも未経験だったよ。何だって始める前から好きってことないじゃない? 成り行きで始めたものが少しずつ大事なものになったりする。スタートに必要なのは、ちょこっとの好奇心くらいだよ」
 谷地さんは、はっと息を呑んだ。
(ちょこっとの好奇心か……)
 好奇心が不安に勝ちますように。私は潔子ちゃんの言葉を大切に胸にしまった。

 その後、谷地さんは自作の遠征資金の寄付を募ったポスターを引っさげて入部してくれた。資金が足りないという話を武田先生が話していたのを聞いたようで、自ら働きかけて作ってくれたものだ。
「すっご……」
 その出来栄えはまるでプロ。私と潔子ちゃんは絵が下手だ。今まで作っていたチラシが恥ずかしくなり、ふたりで震えた。
 私たちはその日の部活の際に谷地さんに出来立てのジャージを渡した。そして部員全員で歓迎をする。
「ようこそ! 烏野高校排球部へ!」
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