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彩雲の糸

第5章 5.烏たちの涙


「悔しいな……」
 何だろう、去年は負けたってそこまで悔しくなかった。何だろう、これ。
 自分の中に現れた小さな気持ちの変化に気がづいた。
 徹は相変わらず余裕の笑顔で私にピースをした。だけど私は精一杯の苦笑いしか返せなかった。

 帰りに烏養コーチからご飯をご馳走になった。
「試合後の今なんか筋繊維ブッチブチだ。それを飯食って修復する。そうして強くなる」
「だから食え」というコーチの言葉に、みんなが少しずつ箸を進める。そしてポツポツと涙を流し始めた。
私はその涙を見て思った。あぁ、道宮さんと一緒だと。
 本気だったから流せる涙。感情の正体を知り、ようやく私も涙を流した。
 ご飯の味は、正直覚えていない。だけど、みんなで残さずに食べ切った。

 帰り道、3年生と一緒に歩く。悔しさを吐き出したいけど、誰も言葉にはしなかった。心の中で消化しようとしていたのだと思う。
「……今日はも泣いてたの、驚いたよ」
 澤村が切り出した。私はちょっと恥ずかしいなと思ったけど、ようやく気が付いた思いを素直に述べることにした。
「私さ、選手じゃないから、どこか勝ち負けに責任はないと思ってた。だけど、みんなの頑張りを見て来たからこそ、今日は悔しいと思った。勝ちたい、と思った。」
「……」
「だから、マネージャーとして、みんなをちゃんと支えたい」

 ――次は、勝とう……とは、言えなかった。
 3年生は……特に進学する人はここで引退する可能性があったから。
「は続けるんだな。頑張れよ」
 みんなは今後の進退については言及しなかった。願わくば、これからも3年のみんなとバレーを続けたい。次のチャンスが欲しかった。

 家に帰って、3年生に話した言葉を反芻していた。
「今になって烏野バレー部の一員として自覚をしたんじゃ遅すぎだな……」
 澤村たちのためにマネージャーを始めたことがきっかけとはいえ、もっと能動的に働きかけることで自分にも出来たことはあったんじゃないのかと、ずっと考えていた。
 どうして、初めから勝とうという気持ちで頑張らなかったのか。選手じゃないことに安心して接していたのか。
 ……それに、どうして中学でチームメイトに迷惑をかけた分、高校で取り戻そうとしなかったのか。どうしてバレーを簡単に諦めたのか。
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