第5章 5.烏たちの涙
日向の「負けねぇー!」と後ろの方で張り切っている声が聞こえた。
「ほら、相棒の方へ言って来たら?」
「別にいいです」
本当は仲良しなのに、と私はくすくすと笑った。
そして試合当日。
ホイッスルが鳴り青葉城西との試合が始まった。
徹は、ベンチにいる私に一瞬控えめに手を振った。私は軽く会釈を返した。他の女子の目が怖いから、手なんて触れない。
さすがに試合ではヘラヘラとはしていないだろうと思ったけど、時折青城のチームメイトたちが徹をいじり倒している様子が見られた。やっぱり、徹はいつも通りのようだ。
開始早々、徹に翻弄される烏野。ムカつくけど、徹はやっぱり上手い。
徹が開始早々にツーアタックを決め、飛雄がツーアタックをやり返した。負けず嫌いの2人に少しヒヤヒヤした。
だけど、やっぱり徹の方が一枚上手で、サーブを打つ場所とか、誰を崩せばいいのかを戦略的に考えられた頭脳の光るプレーが見られ、関心してしまった。みんなが徹に翻弄されていた。
「試合の慣れ方が違う」
烏養コーチもそう言った。私もギャラリーも圧倒されていた。
だから、飛雄は焦っていた。まるで一人で徹と戦っているようだった。余裕がなさそうだ。
「飛雄、私情を挟んでいるように見えますね」
「ああ」
そう言って、烏養コーチはセッター交代を決めた。
「菅原! 頑張れ!」
「おう!」
菅原は飛雄にポジションを奪われたかわいそうな3年生じゃない。飛雄よりも経験が長い分、優位な部分はたくさんある。
飛雄はベンチに下げられても、腐ることはなかった。菅原や日向の言葉もあり、しっかりベンチに下がる意味を見出していた。
菅原の活躍で流れを切っても、1セット目は落とし、その後復活した飛雄の活躍で、2セット目を取り返した。
しかし、3セット目は常に拮抗した状態だった。
息が止まりそうになる。長いラリーが続き、早く相手のコートにボールが落ちることを祈ることしか出来ない。
しかし、思いは届かなかった。ラスト、完璧な飛雄と日向の速攻を徹に読まれた。
烏野はデュースの末に敗れたのだ。
みんなの調子は悪くなかった。その上で負けた。
いくら飛雄は天才でも、チームとしての経験の差。徹の作り上げたチーム力の差。これに尽きた。