第5章 5.烏たちの涙
6月に入り最後のインターハイ予選が始まった。「飛べ」という横断幕を引っ提げて私たちは会場入りした。
前日、数年間しまい込まれていた烏野高校の横断幕を綺麗な状態に復活させた潔子ちゃんからの精一杯の声援があり、2、3年生が涙していた。
あれはズルい。恥ずかしそうに応援している姿が可愛すぎる。私はこっそりモテテクニックとしてインプットした。使い時は来ないだろうけど。そもそも、狙ってやるのは間違いだけど。
仙台市体育館では女子バレーも同じ会場で試合があり、実のところ私は女子バレー部を目に入れることは少し抵抗があった。私が選ばなかった道。あのときは選べなかった道。
(もしかしたら、ひぐまんに会えるかもしれないな……)
マネージャーを始めたことは伝えていたものの、休みなく部活のあるひぐまんとは中学以来会ってはいない。去年はタイミングの問題なのか、試合会場では会えなかった。
今日の2試合は潔子ちゃんがベンチに入り、翌日の第3試合にコマを進めることになった場合は、私がベンチに入ることになった。
第1試合は難なく勝利し、その後、私は急遽備品の買い出しへ行くことになった。その途中、廊下で敗退した烏野女子バレー部の道宮さんがひとり隠れて泣いている姿を見かけてしまった。キュッと胸が締め付けられる思いだった。
きっと、部員たちの前では泣かずに堪えていたのであろう。主将として仕事をやり切った彼女の姿を目に焼き付けた。
これまできっとたくさん努力してきたのであろう。3年間、いろんなことがあったのだろう。それらを乗り越えて、今日、最後の舞台に立った彼女。その涙にはこれまでの軌跡があった。もしかしたら後悔もあるかもしれない。だけど、努力してきたからこそ流せる涙なのだ。
そんな彼女に声をかける勇気はなかった。その資格もなかった。私はそっとその場を離れた。
買い出しが終わり体育館へ戻ると、ちょうど新山女子が試合をしているところだった。ひぐまんはいるのかな……とコート内を見てもいない。もしやと思い、コートの外を見ると、そこにひぐまんはいた。
残酷だ。さすが、高校女子バレー界のトップ校。スタメンじゃなかったんだ。いや、今日は調子が悪かっただけなのかもしれない。彼女は私のかつての相棒。尊敬する選手のひとり……。