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彩雲の糸

第4章 4.夢を見る資格


「さんも、ちゃんと膝が使えているし、きっともう大丈夫ですよ」
 もう、怪我は治っている。膝を安定させるための金属が足に入っているものの、まったく支障がないのは頭では分かっていた。
「そうだね。ありがと」
 飛雄は笑わない奴だ。高校に入ってからは、怒っているの?と勘違いされることが多かったけど、今日も表情はとても柔らかく見えた。
「さんが試合に出られないまま引退しちゃったから、それからはもう話す機会がなかったけど、ずっと心配していました」
「そっか。心配してくれてありがとう。あのときは担架を出してくれて助かったよ」
 他人のことを心配できる人なんだな。目つきは悪くても、若干言葉足らずでも、飛雄はちゃんと優しい。
「引退するまではしっかりマネージャーとしてみんなを支えられるように、頑張るね」

「さん、バレーは……」
 飛雄が何かを言いかけたとき、後ろから声がした。

「―! 影山―! お疲れー!」
「あ、みんな」
 澤村、菅原、旭が手を振っていた。菅原はやたらとニヤニヤしていた。多分、何か勘違いをしている。
「お疲れー!」
「お疲れ様です!」
 パスを中断し、飛雄はボールをカバンにしまった。
「邪魔したな。今度、俺らともやろうぜ」
 澤村がそう言って、菅原を引っ張って旭と帰って行った。
「あの3人、何か勘違いしてるかも」
「何をです?」
「あ、何でもない」
 飛雄が何も気にしていないのなら、別にいいか。先日、徹との噂も火消しに1週間かかったから、少し過敏になっていたのかもしれない。

「今日はありがとう。楽しかったよ」
「またやりましょう」
 そう言って私たちはT字路で別れそれぞれの帰路についた。

 ひとりになってからも、私は胸が高鳴り続けていた。月が夜道を明るく照らし、足取りを軽くさせた。
 もうプレーは出来ないと決めつけていた私は、この合宿で確実にもう一歩を踏み出したのだ。

 次は飛べるかな。サーブ、打てるかな。
 だけど、こんな私がまた夢を見ても許されるのだろうか。
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