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彩雲の糸

第4章 4.夢を見る資格


 帰りの足取りがいつもよりも軽い気がする。
 ボールをパスして、それをまた返される。単純で初歩的、だけど一番大切なレシーブが出来たことが素直に嬉しかった。

 次の日も、夕食後に日向の練習に付き合わされた。私がバレーをしている姿が珍しいらしく、毎回誰かしらギャラリーがいた。むしろ私と対人パスをやりたいという人たち(田中と西谷と菅原)も現れたが、丁重にお断りした。

 そして合宿の集大成。鳥養前監督の退任と共に交流が途絶えてしまった東京の音駒高校との念願の試合があった。武田先生が必死に頭を下げて実現した試合だ。
 なぜか田中に似た男の子が潔子ちゃんと私を見て涙目になっていた。だけど潔子ちゃんは気にも留めていなかった。

 私はジャグを作り、音駒の選手用にもコップを用意した。試合ではスコアを付けた。
 試合中にも試行錯誤を重ねて進化していくみんなを見て、尊敬した。常に考えて行動することは、向上心と情熱がないと出来ないことだから。そういったこと、私は久しくしていなかった。
 それでも、一朝一夕には出来るようになるものでもないし、試合は見事に負けてしまった。だけど、実りある試合だった。

 合宿も終わり、帰路につく。今日も校門前で飛雄に会った。
「さん、一緒に帰りませんか?」
「いいよ」
 私を待っていたのかな。何か話があるのだろうか。

 私たちは途中にあった公園に寄ることになった。
 飛雄はカバンからバレーボールを取り出した。
「……ほんとは、俺もさんと対人がやりたかったんです」
 口を尖らせて恥ずかしそうにしている飛雄。久しぶりに可愛げのある飛雄を見て、中1の彼を思い出し、懐かしくなった。
「ふふ、いいよ。ちょっとだけなら」

 ポーン、ポーンと私たちは対人パスをする。周囲はとても静かで、ただひたすらにバレーに集中する。
「……さん。かっこいいですよ」
「え?」
 パスを続けながら、飛雄は口を開いた。
「日向が少しレシーブ上手くなってのは、さんのおかげですよ」
「……まぁ、自分でもびっくりしているよ」
 正直、照れた。飛雄にそんな風に言われて。私なんかのことを気にかけてくれて、嬉しかった。
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