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彩雲の糸

第4章 4.夢を見る資格


「う……本当に私3年ぶりだから……」
 ボールを持って固まってしまった私を見て、日向は自信満々に言った。
「大丈夫です! さんが出来るのは知ってますから!」
「……日向は、私が経験者だって知ってたんだ」
「はい、影山から聞きました。めっちゃ上手かったって」
「そっか……」
 もうどうにでもなれ。私は日向にボールを山なりに投げた。日向が真っ直ぐ私に返す。
 反射的に、私はレシーブの構えをし、ボールを受けた。
(久しぶりの感覚……。懐かしい)

 対人パスはしばらく続いた。バレーボールは思ったよりも硬く、だんだんと腕が赤くなる。
「そうそう、手だけでやろうとしないで、足もね」
「はい!」
 徐々に慣れてきて、時折スパイクも混ぜてみる。長年のブランクで、威力はへなちょこだったけど。
「ひゅー、かっこいい!」
「日向、幸せ者だなコノヤロー!」
 気がつくとギャラリーがわらわらと増えていた。
「わあぁぁ!? ごめん! マネージャーの分際で!」
 私はペコペコと頭を下げる。調子に乗ってしまった。
恥ずかしくなり、そそくさとその場から逃げ出した。

 急いで合宿所を出てから、私は道端でしばらく赤くなった腕を見つめて立っていた。
 身体が覚えていた。
「出来た……かも」

「――出来たじゃないですか」
 振り向くと、飛雄が立っていた。
「飛雄。日向を見てたら、つい……」
「あいつの下手くそにも、今日だけは感謝です」
 飛雄はふっと笑って私を見つめた。いつもの無表情または不機嫌そうな飛雄は鳴りを潜め、優しい顔を見せたことが印象的だった。
「今日はただの対人だから、ギリギリ出来たようなもんだよ」
「それでも。さんがバレーやってるのを見られてよかったです」
 飛雄は本当に、私がバレーをやったことが嬉しかったんだな。
「……一生やらないと思ってた。だけど、思い切って飛び込んでみるもんだね」
「意外とそれで上手くいくんだと思います」
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