第4章 4.夢を見る資格
部活停止の処分を受けた西谷が戻り、旭も帰って来てくれた。武田先生の尽力のおかげで、坂ノ下商店のお兄さんこと……なんと烏養前監督の孫である烏養コーチが新たに就任し、烏野高校は再スタートを果たした。
烏養コーチには入部前に泣き顔を晒したことがある。どうか忘れていて欲しかったけど、バッチリ覚えられていた。
ゴールデンウイーク中に強化合宿があり、私も参加することとなった。潔子ちゃんは合宿所には泊まらずに毎晩自宅に戻るということで、私も女子ひとりでは心細いため、合宿所と自宅の往復をすることにした。
練習開始前にドリンクを作り、全員分のビブスを用意したり洗ったり。練習中はボール出し、ボール拾いを手伝いつつも記録を取る。夜は武田先生と潔子ちゃんと食事の準備をした。
「ご飯を炊くのは得意なの」
「それ炊飯器がやるんじゃないの?」
潔子ちゃんが控えめに笑った。私はせっせとご飯を大量に炊き、野菜を切る手伝いをした。武田先生は一人暮らしが板に付いているようで、慣れた手つきで私たちに指示を出してくれた。
1日の業務が終わり、帰ろうかなと思ったところ、外を見ると日向が1人で壁に向かってレシーブの練習をしていた。
偉いなぁ、と感心しつつしばらく見守っていたが、まだまだレシーブの技術が身についていない様子だった。
(じ、じれったい……)
居ても立っても居られなくなり、私は思わず声をかけてしまった。
「もっと腰を落としてごらん。重心は前」
「さん!」
ヤバい。つい声をかけてしまった。とっさに発してしまった声を飲み込もうとした。日向は嬉しそうに「さんが教えてくれた!」と喜んでいる。
「そうそう、かかとを浮かせるの忘れないで」
流れで日向の練習を見ることになってしまった。なんてお人好しなんだ、私は。
「さん、対人パスやりましょう!」
「え? それは無理、ごめん」
「なんでですか? 出来ますよ、さんなら」
急に日向に手を引かれる。バレーはもう出来ない。軽い気持ちで口出しをしてしまったことを後悔した。