第2章 2.一歩目
静まり返った店内。店主のお兄さんも何故か聞き入っていた。
「ごめんね。たくさん誘ってくれたのに、冷たい言い方をして」
「でもさ、バレー、やっぱり好きでしょ?」
澤村くんが私の右肩に優しく手を置いて言った。
「そうだよ、自分に嘘はつけないよ」
菅原くんがさらに私の左肩に手を置いた。
「今まで、辛かったね」
トドメの東峰くんの優しい言葉。
私は声を上げて泣いてしまった。
「ご、ごめ……」
泣きたくはなかった。知り合って間もない人達の前でこんなに感情をむき出しにすることは恥ずかしかった。だけど、みんなは「辛かったな」と優しく背中をさすってくれた。
「また、プレーをしたいと思う日が来るまで、マネージャーとして力を貸してくれる?」
清水さんがハンカチを差し出してくれた。柔軟剤のいい匂いのするハンカチだった。
私は返事の代わりに頷くことしか出来なかった。
真剣に私の話を聞いてくれて、バレーは嫌になんかなれないことに気づかせてくれた彼らのために、マネージャーを引き受けようと自然と思えた。
「じゃあ……やってみようかな」
「やった!!」
こうして、時の止まっていた私を救い出してくれた彼らのために一歩目を歩むことにしたのだ。
アイスもサイダーも、チョコレートも飴も、供えられたものをありがたく全部食べ、私は自宅に帰った。
「お母さん、私男子バレー部のマネージャーやることになった」
夕食を作っていた母の手がピタリと止まった。しばらくの間、背を向けて時が止まったように固まっていた。
「……マネージャーも大切な仕事だから、部員たちをしっかり支えてやりなさい」
「……うん」
そう言ってから、母は振り返って笑顔を見せてくれた。ちょっとだけ、鼻の頭が赤くなっていた。
「頑張ってね!」
「うん!」
「……どんな形でも、バレーを続けてくれて嬉しいよ」
「え?」
「ううん。さ、ご飯出来るから手を洗っておいで」