第1章 Ⅰ*エルヴィン・スミス
相変わらず夢を見ては涙する。
こんな夢なら見たくないと願っても、最終回のリピートばかりを見続ける。
いつもと同じ通勤電車に乗って、変化のない日々。
「ちょっと!!!ちょっと待って、ねえ!!」
ホームに降りると知らない女性に腕を捕まれた…しかし夢では良く知る人物だった。
『…え、………ハ、…ハンジ…?』
知っている名前を呼んでみた。
「そうだよ!私だよ!!」
ハンジに抱きしめられて、そのぬくもりにぼろぼろと涙が溢れた。
夢じゃない現実には、エルヴィンもリヴァイも、ハンジも存在した。
朝の通勤時間帯、混み合うホームで大の大人が2人で大声を出して泣いた。
「良かった、生きていてくれた…」
『そうだね、生きてる』
普通に考えれば変な会話でも、あの夢を見ていればとても意味のある言葉だ。
だが腑に落ちない。
『ねぇ、ハンジ。夢の話じゃなかったの…?』
ハンジいわく彼女の見た夢は前世の記憶で、皆が思い出している訳ではないという事だった。
「…エルヴィンには…」
『びっくりしちゃった。雲の上の人だった、先日偶然知ったの』
「会ってみたくないかい?」
『…会えない。これ以上自分に落胆したくないの…』
彼は著名人で、自分は会社勤めの一般人だ。
会ったところで、現実でも苦しむことはしたくなかった。
それでも自分自身に区切りをつけるために一度だけ彼を見てみようと、エルヴィンのピアノソロコンサートのチケットに応募し落選した事をハンジに話した。
「伝手でどうにでもなる!一緒に行こう?」
『でも…会ったばかりのハンジに迷惑はかけれないよ』
「相変わらずバカだなは…、私が君にどれほど助けられたか…」
エルヴィン亡き後、調査兵団の団長となりモブリットを失ったハンジを支えたのは他の誰でもない彼女だった。
お互いが支え合い共に生きた。
しかし、の見る夢は、最終回から続きはない。
ハンジを助けることができたなら、知らなくても喜ばしいことだと思う。
『もう…泣かないでハンジ』
「その感じも相変わらずだね」
あの頃のハンジは、毅然とした変人で、とても強い人だった。
ハンジは自身の知らない、先の話を思い出しているのかもしれない。
そして…ハンジはどんな手を使ったのか、その日のうちにVIP席のチケットを用意していた。