第1章 Ⅰ*エルヴィン・スミス
『ねぇハンジ…どうやって手に入れたの…。VIPチケットって…』
ハンジは実に淡々としている。
「伝手だよ!あとドレスコードもあるからね!」
『この時代でもドレスなんて無縁ね、着たことないよ』
ドレスも自分が手配すると言い出して、言い出すと聞かないハンジに全てを任せる事にした。
コンサートの3日前にドレスを抱えたハンジがやって来た。
「着てみて!必ず似合うよ」
そのドレスは前世で一度だけ腕を通した物と良く似ていた。
招かれた貴族達の舞踏会で、エルヴィンにエスコートをされた時の。
『似てるね…』
ドレスに袖を通して、姿見の前に立ってみる。
「そうだね。ほら、よく似合う!」
漆黒の髪と真っ白な肌に映える、真紅のドレスだった。
『ドレスコード…大丈夫なの?ちょっと…ううんかなり派手すぎない…?』
「問題ないよ」
『いくらかかったの?チケット代も払うよ』
「チケット代は伝手でタダ!ドレスは知り合いから譲り受けたものだからタダ!安心してよ」
チケットは伝手で貰ったのも信じ難いけれど。
"あつらえました"と言わんばかりに、自分の身体にフィットするドレスには違和感を覚えてしまう。
「再会の記念だよ」と言われてしまえば断るのも忍びなくて、有り難く好意に甘える事にした。
コンサートの当日には、ハンジに連れられてヘアメイクから何から何まで至れり尽くせりだった。
気分はまるでシンデレラだ。
一夜限りの幸せな夢。
「あとこれね…動かないでね」
『…ハンジ?』
首元には上品なダイヤのネックレスが添えられた。
あまりに高価すぎるのではないだろうかと、気後れしてしまう。
「、最ッッ高に綺麗だよ!!」
『もう…すぐ泣くんだから』
鏡越しに映るハンジは、目に涙をためてとても嬉しそうに笑っていた。