第4章 VI * アルミン・アルレルト
パレードの主役であろう、出会ったばかりのこの人達が何をしているのかは一切知らない。
けれど命の恩人が罵詈雑言を浴びせられるのは、到底気分の良いものでは無かった。
道を囲む人達の顔を目に映す。
向けられているのは嫌悪、憎悪、厭悪と、負の感情ばかりだ。
が生きてきた22年の人生の中で、こんな悪意を向けられた経験はない。
酷く吐き気を誘うものだった。
両耳を抑えてうずくまった。
早く通り過ぎて欲しいと、心から願った。
ずいぶん長い時間に感じたけれど、うずくまっているうちに辺りはすっかり静けさを取り戻していた。
馬の蹄鉄に荷車の音、緊張がとけて全身が脱力感に襲われた。
「驚いたでしょ」
声をかけてきたのは、矢継ぎ早に質問をしてきた分隊長だった。
『…そうですね。あれ程に他人からの憎悪をぶつけられたのははじめてです…』
「そうか、ごめんね」
『いえ、分隊長さんが悪いわけでは…』
「初めて見た?」
『はい』
「そうかそうか…壁の中の人ではないんだね?」
『え?』
「どこから来たんだろうね?気にるなぁ!」
気のせいか、分隊長の瞳は爛々と輝いているように見えた。