第1章 Ⅰ*エルヴィン・スミス
夢現のままハンジに送られた。
その日は眼帯を付けたハンジと、いつもと変わらないリヴァイと団長室でお茶を飲む夢だった。
大きな柱を失った3人が互いを支え合った様子が手に取るように伝わる。
コンサートの時に感じた大きな安心感は、その関係性からきていたのだと思い出すことができた。
淋しいけれど、良い夢だった。
そしていつもの日常がはじまる。
起床をして、軽めの朝食をとって、身支度をして出社をする。
朝礼が終わるなり上司から声がかかり、社長室に呼び出しをされた。
この時点で察しはついていたが、仕事の早さに少し引いてしまったのは言うまでもなかった。
案の定、社長室にはエルヴィンとハンジがいた。
「おはよう!」
「こちらへ」
社長の顔を伺うと、エルヴィンの勧める席に座るように促された。
エルヴィンの隣に腰をかけると、交渉は既に終わっていて事後報告のみ告げられた。
社長の「有名なレコード会社に転職と知れたら後々面倒だろう」と言う事で引き継ぎに一週間、のち寿退社をすることになった。
一週間慌ただしく過ごして、無事に引き継ぎも終わると、次は新居への引っ越し準備がはじまる。
家具家電類は全て処分し、の荷物は衣服くらいしか無かった。
両親への挨拶も滞りなく終わる。
男っ気の一切なかった娘が突如として『結婚することになった』と言い出したかと思えば、世界的に有名なピアニストを連れて帰ってきた。
両親は驚愕して、恥ずかしくなるくらいに激しく喜んだ。
意外とミーハーだったらしい。
挨拶が終わると、すぐに入籍をした。
エルヴィンは結婚発表と同時に引退発表を行った。
忙しなさも一段落して、いまだにふわふわと夢心地の中にいる。
エルヴィンの方はしばらくは忙しいらしく、まだまだ新婚生活とは程遠い生活を送っていた。