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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第1章 禍根【江戸後期:鬼舞辻無惨】



抑えきれない気持ちからか、怒りの炎が炭と化したように、その言葉を聞いた瞬間に絶望にひとつ堕ちたように思った。

やり場のない感情が自我を保つ範囲を超えてか、力を失いその場にへたり込む。

征服欲と可逆心がさらに膨れ上がる。
しかし、この様子だと早く崩れ落ち愉しみがない。


立てない紗枝を横抱きにした瞬間ガクガクと震えた。
私への拒絶の意思だろう。

それすらも抗うことが出来ないまでに力を失くして、その瞳からは悔しさと絶望が混じった涙だけが溢れ堕ちるだけ。

そのまま、寝室へと連れていき横たえると、うわ言で「清史郎さん…清史郎さん…」と呟き続けた。

健気で哀れ…

そして滑稽…


紗枝が来てから数日。

それまで、近隣に不審に思われていた私の存在が彼女が来たことで不自然なことが減ったように思う。

学者を生業とし、日光皮膚炎が酷くて外に出れないと外に出ない理由を作った分不審がられないようにしてきた。

良妻としてふるまうというよりは、必要以上に話さず、用事があるときは一言も話さず後ろをただついてくるだけ。

噂好きの年増は連れ立って歩くだけで勘違いする分扱いやすかった。

利用価値があればそれでいい。

今の時代の鬼狩りに何の恐怖も危機感も必要ない。

どう束になっても上弦が脅かされるほどの鬼狩りはいないからだ。
せいぜい下弦を倒すほどだろう。

十二鬼月を編成したばかりだが、まだ下弦は牙羅以外にいい鬼がいない。まだ強い鬼になれる人間が少ない…。




だというのに、
牙羅がこの女に殺されて欲しいさえ、今の私は思っている。

紗枝が清史郎の名前を呼ぶ度に、夢で恋い慕う笑みを浮かべているのを目の当たりにする度に

身に覚えのない
得体のしれない
ぐつぐつと濁って滾る感覚が鬱陶しい。

また見知らぬ表情を見る度に…。

ザワザワする。

つまらぬ…。
私は鬼の始祖だ。
怒り狂いながら同時に恐怖と絶望に溺れる表情をわたしの手で引き出したい…。

私の好き放題、手のひらで転がしながら絶望をたくさん与えてやろう…。

少しずつ…

少しずつ…






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