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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第2章 The Light in the Abyssー前編【猗窩座】





気を飛ばしたらしい彩葉の体を拭いて、その細い体を抱きしめながら余韻に浸る。

「無理、させたか…」

ここまで、晴れやかで優しく心地よい風のようなものを心に感じたのはいつぶりだろうか…。

汗で湿った髪を払って、穏やかに眠る瞼に触れた。

今まで、出会ってきた人たちに、ここまで俺の心に入り込んでくる者もなかった。

なぜだろうな。
不快に感じることもないまま、気づけばたまらないほどに酔わされて、言葉を交わさないで通じ合えるというのは映画の世界だけだと思っていたというのに…。


無垢な眠りを包むように日が差す。
鮮烈に焼き付ける素晴らしき才能を持ったあの目とは随分違うあどけない寝顔が愛おしい。

再び彼女の上に跨り、その身を起こさぬよう
深くそっと抱きしめた。

規則正しく刻む鼓動
あたたかい体温
彼女から香る匂い

このまま、この温かさに身を委ねてしまいたい。

だが、この温もりを、通じ合えたこころを完全に繋ぎとめてしまうには越えなければならない壁がある。

彼女は、俺の過去を何も知らない。

あの日の出来事。
この体にタトゥーを刻んだ経緯。
なぜ、俺が俺の人生に絶望していたのか。

今の状況は
ただ感情だけで彼女に受け入れられているだけ。

だが、俺が『彩葉を完全に自分の女として傍におきたい』という気持ちが抑えられないなら、話さなければならない。
彼女を完全に受け入れたいなら、俺もまた、すべてを彼女に明け渡さなければならない。

彼女は、きっと俺の過去のすべてを受け止めてくれるだろう。
そう信じたい。だが、もし、俺の汚れた過去を知って、彼女が俺から離れていこうとしたら…

俺は、彼女を失う恐怖に、身を震わせた。

このまま、何も話さず、この安穏な時間を続けるべきか。
それとも、すべてを話して、彼女のすべてを手に入れるべきか。

激しく揺れ動く心。
即ちそれは、この現状のままでは真の安寧とは言えないということだ。

そして、一つ、決意した。

俺は、俺の過去と、もう一度向き合う。
そして、すべてを彼女に話そう。
たとえ、それで彼女が俺から離れていくことになったとしても。



彼女を嘘で縛り付けることはできない。

それは彼女が俺を受け入れてくれた心や
彼女が俺に作り出した作品に泥を塗ることになる。


そう思うからだ。





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