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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第1章 禍根【江戸後期:鬼舞辻無惨】



もうすぐ、夜が明けるからと、潜入先である館へと招き入れる。
洋式で白で統一された屋敷の中でも、女の存在感は薄れることなく、そこに咲くひと房のユリのようだった。

あぁ、この白い花をどう弄んでやろう。

そう考えるだけで、意図もせず好奇心が止まらぬ。

とても都合のいい玩具を手に入れたと笑みが込み上げえてきては止まらなかった。







「教えなさい。大人しく屋敷まで来たのです」

「まだ、教えない」


そんな勿体ないことをするわけがなかろう。

嫌悪しかないこの不自由な肉体のまま

いつぞや手に入るか解らぬ青彼岸花を待つという退屈で苛立つ長い時間を耐えるに相応しい玩具を。


「鬼は不死身。人間は有限。お前に私は殺せはしない」

悔しいであろう。

この女は賢い。

私という大災害を前に、否定すれば命の灯火は簡単に吹き消せるということを、この女はよくわかっているようだった。

絶望に染まる表情は女が私の手のひらの上から降りることすらできない。

「だが、私の意のままに夫婦を演ずれば1年後に居場所を教えると約束しよう」

「誰が信じましょう…。そんな解りやすい嘘を」

懐疑と怒りを混ぜた瞳をこちらに向ける。
信じられぬのも無理はない。
全てはこちらの采配なのだから。

「では、死に耐えるまで苦しみ続けるか?私のもとで…」

「すべてはあなたの気分次第であると仰るのですか?」

「その通りだ。ただ、分かりやすい希望を与えてやる。
居場所は最後に、その男の情報を教えてやっても構わない。
だが、少しずつだ。
信じるか信じないかはお前が決めればいい」


戸惑う紗枝はしばらく考えるように静かになり、そして、一言

「わたしには抗う術等ございません。しかしながら、そうやすやすと全て服従するものでもありません」

と言い放った。

それでよい。全て服従すれば今まで見てきた恐れ一択の人間と変わりない。

抗えぬものを必死にあがいて抗い、壊れていくからこそ美しいのだ。



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