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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第1章 禍根【江戸後期:鬼舞辻無惨】



「私を殺しては、その鬼になった夫を殺すことも叶うまい」

息をのむ音が聞こえた。
芽を出した可逆心がむくむくと膨れ上がるのを感じる。
涙をあふれさせて、息も詰まらせてヒクヒクと声を殺してこちらを睨みつける。

あぁ…
なんと美しい。

「その手で殺したいのだろう」

もっと壊したい。
いや、壊す以上に…

「私についてきさえすれば、望むことはいくらでも叶えてやろう」

この純白を私の望む色に染めたらどのようになるだろう。

そのような好奇心が溢れて止まらない。

蝶を絡めとる蜘蛛の意図にそのまま自由にもがく姿を見ていたいと思ったのだ。





女は私からの提案を受け入れ、
しばし長い旅路を共にする。



死ぬことも
殺すことも
生かすことも
鬼にすることも
人のままにすることさえも






この女の命や運命が全てがわたしの手の中にあると思っていた。



女は若松紗枝と名乗る。
名を改めさせ夫婦として動くようにと命じた。

「わたしは主人を殺したら死ぬのです。なぜあなた様の妻として行動を共にせねばならないのですか」
「その方が表向きの都合がいいからだ」

不服そうに私を睨む。
何もできない人間のはったりのようなものでも、単純に怯えられるよりも面白い。

「表向き…。あなたの言葉は信用できません」
「信用するもしないも自由だが、私と共にいない限りは紗枝の夫であった鬼とも会えぬのだぞ」

悔しそうに顔をゆがめる。
余程愛した男だったのだろう。

実に愉快だ…。
恐れではなく怒りを向けられる。

怒りは敗北を悟るという現れ。
しかし、恐れ逃げることではない。
無意味に抗おうとするが勝てないとわかっているからこその怒りである。
それを向けられる私が目の前の命を手に入れた瞬間。

強く良い女子であれば、なお良いだろう。

実に愉快だ。



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