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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第2章 The Light in the Abyssー前編【猗窩座】



俺は、彼女の作品を完成させるように、その空虚を纏った。そして、彼女が俺の内面をここまで深く理解していることに、心底驚き、そして、歓喜した。



『言葉を介さない、魂の対話』



芸術の世界で、モデルと、そのモデルを彩る側の至高の領域の関係をそう呼ぶ人がいるらしいが、これこそその通りだ。



むしろ、その立場の枠さえをも超えているようにさえ思う。











撮影は、次の場所へ移る。



車で移動すること数十分。たどり着いたのは、暖かな日差しが差し込む、広大な草原だった。



「……今度は、ここから『再生』させていくんですね」



彼女はそう言った。

声色も表情も、先ほどの撮影の時とは違って柔らかい。



少し時間が経って乾きひび割れたそこを見る眼差しが、なぜか俺自身が、囚われている檻を打ち破る姿を歓喜しているように思えた。


痛くないようにペイントをふき取りながら、筆などで足されていくものが、俺にもともとあったものを芽吹かせていくように感じた。

ひとつひとつの傷に光を照らして意味を与えられる。

全体を見ながら、また俺の体に筆を落とす様は、今まで向き合ってこなかった過去の出来事を客観的に見ている自分のような気がして…

あぁ、なぜ、仕事なのにここまで感傷に浸ってしまうんだろう…

気付けば仕事なぞそっちのけで、彼女が作品に向ける感情を自分に向けられているような気になっていた。

仕事に集中しろ。



だが、そんな自分をまた忘れてしまうほど、彼女の手つきが優しかった。

「……っ」

不覚にも、声が漏れた。痛みではない。
心の奥底から、これまで感じたことのないほどの、温かい感情が込み上げてくる。孤独や悲しみ、怒り、そして、諦め……全てが溶けて、新しい感情へと変わっていく。

俺は、その涙を彼女に悟られまいと、必死に堪えた。だが、彼女は、俺の涙に気づいたようだ。

「……大丈夫ですか?」

焦って彼女を見ると
どうやら、拭き取りで痛みを感じたのではないか思ったらしい。

胸に込み上げてくる暖かさに何も言えず、ただ、彼女の手を握った。

少し戸惑っていたが特に何も言わず、何か感じたのかほんの少しそのままにしてくれた。
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