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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第2章 The Light in the Abyssー前編【猗窩座】



仕事は思いのほかサクサクと進んでいった。

カメラマンの指示に従っても、最近は案外思い通りになるものだ。

「それ、もともと猗窩座さんにあったみたいで、すっごくクールですね!!
もっと魅せるように椅子を持つようにして右腕出してみましょう」

ペイントを”それ”と簡単に扱われたような気がしたが、その後に続く言葉は同意見だ。

俺が被写体として芸術作品としてここまで完成度が高いものを作れて、俺自身で完璧になれるほどに引き出せるのは、今後彼女以外に現れないだろうとすら思っている。

俺の醜い部分を芸術的に美しくして表に出したことが、心のノイズを打ち消してくれる心地よさ…。

作品の本質と俺自身とリンクするそれは、どういう動きを魅せれば最高に映るかわかるような気がした。

照明に焼かれる暑さに汗が出れば、ストップをかけてでも手直しに来る。

律儀に丁寧に汗を拭けば、冷たい塗料が筆で落とされる。

一つ息を吐いても、それを気にも留めず筆を進めた。

また仕上がれば1週俺の周りをまわって確認する。

生きた作品のように見られてどこか心地よい。

「あれ?猗窩座さん、そのスタッフと随分長いんでしたっけ?」

「いや。今回で仕事として3回目だ」

「へぇ~!!二人ともいい表情されてるので信頼関係が凄いんだなと。
お二人それぞれの噂はかねがねから聞いていたので」

このカメラマンは3年前に1度仕事で世話になっている。

洞察力が高く口が回るこの男は、俺も彼女も気難しい類で噂を聞いているのだろう。

聞こえていないのか聞いていないのか、彼女はちらりとカメラマンの方を見ると、手直しが済んだようで裏方に戻っていく。

スタッフのお陰で順調に事が進み、
この日のメインの仕事は滞りなく無事終了した。

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