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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第2章 The Light in the Abyssー前編【猗窩座】



仕上がったそれは思い描いたそれに生を宿した身体の表面と化したように見えるほどの出来栄えだ。

確認のために一回り歩き、隅々まで確認する。

「OKです。どこか調子の悪いところはないでしょうか?」
「いや、大丈夫だ。今日の出来も良い」
「ありがとうございます」
「あぁ…」

こちらがOKを出すと、完全に現場に入る顔で次の段階に入る。

「あとでスタジオにて待機してますので…」
「あぁ」

最後、用意された衣類を纏い、ボディーメイクの乱れがないかを確認して送り出す。

メイクやペイントの道具を片付け、メイクを落とすための準備をする。

スタジオに持ち運ぶ道具をまとめていると、先輩が入ってきた。

「あなたの緊張感って、あぁいう物静かなモデルさんを仕事モードにする力があるわよね」

いつもは赤いルージュが高圧的で鬱陶しい。

だけど、この時はただ先輩を引き立てているだけのような気もしてくる。

「評価していただいてありがとうございます。わたしの方も集中して仕事に没頭できるのでやりやすいです」

彼を送り出した後、声をかけてきたスタイリストさんにそう言われた。

わたしがメイクを施す間、パレットや筆、メイク道具を置く物音以外一切の音がないらしい。

その緊張感から、どんなに気になっていたとしても何かを壊してしまいそうで覗こうにも覗けないだとか。

痛くないか、痒くないか、そんなのは顔を見ればわかるし、そうならないように配慮するのはこちらの仕事だ。

クライアントに不快を一瞬でも与えないことがわたしが制作に没頭するための大前提である。


わらわらと、楽屋は次の段階の使用に変えられた。

わたしと数人はお直しのための僅かな道具を持って、スタジオ入りした。


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