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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第1章 禍根【江戸後期:鬼舞辻無惨】



この洋館での日々は、私にとって新しい種類の退屈な時間だった。
かつては人間をただの餌としか見ていなかった私が、この女の感情の動きを観察することに、奇妙な愉悦を感じていた。
これは、支配欲を超えた、より深い何か。私はそれを『興味』と名付けていた。

だが、この興味は、私という完璧な存在に開いた、小さな穴だった。

いつしかその穴は、深く大きなものになっていたというのに気づかぬふりをして、見て見ぬふりをして、しまいには自分自身で人間のような不完全な感情に蝕まれていた。

「完全なんて幻想です。
完全に支配しようとすればするほど、結果、あなたが今私に囚われてしまっているでしょ?」

紗枝の言うとおりだ。

異様に嘲笑うように喘いで、記憶に焼き付けるように目を背けさせない。

「わたしは、いつかあなたの傍から消えます」

私の性器を締め付けて自ら動かしながら、自らの手でも犯し始める。

清々しいほどに吹っ切れた女の姿は恐ろしいほどに美しく、鮮烈に私の深いところにまで入ってくるようだった。

「全部全部、その1000年も積み重ねてきた体に刻み付けて、その魂に自ら刻み付けた『わたし』という幻像に…声に…一生苦しむのです」

私は、この物語を、私の手で終わらせなければならなかったのだ。
そう理解しているというのに、手放しても、殺しても、鬼にしても喪失という枷が付きまとうと容易く想像できるほどに焼き付いてしまった存在…。

目の前で乱れて魅せる魔性の悪魔と化した姿を、まるで美しい絵画を時を止められて眺めるかのように見つめている自分がいた。







夜が明ける頃、紗枝は静かに私の体から離れた。

風呂で冷や水を浴びる音をただ聞いていると、しばらくして、出会った頃のような純白の着物を召して再び現れる。

穢れを取ってきたかのようなそれは、まるで儀式を終えた後のようだった。その顔には、狂気的な笑みも、嘲笑もなく、ただ深い空虚を纏いながらも、どこか晴れ晴れとしているようにも感じた。

「これで、あなたはわたしの幻想から逃げられなくなりますね…」

その声は、勝利を確信した者の静かな声だった。

私は最後の最後まで、彼女が言うように殺すことも、鬼にすることも、この場に留めることもできなかった。
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