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鬼が人の心を宿す時【鬼滅の刃】*短編集(ほぼ鬼)

第1章 禍根【江戸後期:鬼舞辻無惨】



翌朝、紗枝の寝室に向かう。

そこには放心状態で横になったままの姿があり、近づいて様子を伺った。

視線はゆっくりとこちらに向けられ、その瞳の奥から憎悪による鋭い気がメラメラと燃え上がるのを感じた。

絶望により、全てを手放すのではなく
未だに静かに燃え盛る憎悪。

それは、屈服せずに最後まで私に抗い続けることを意味している。

彼女の心を屈服させるために、あらゆる手段を講じてきたというのに、
未だに私の力は、彼女の魂には届いていない。

しかし、流石に精神的に堪えているのか、食事が喉を通らなくなり少しずつ弱っていった。

憎悪を燃やしたまま。

その姿は、
このまま私を呪い殺そうと考えているようにすら思えた。




数週間後。

彼女の食欲が元に戻ってきた頃、再び彼女が鬼殺隊と接触した痕跡を見つけた。

以前と同じく書物の端に残した微かに残る墨の跡。それは、内容がどうであれ、その行為自体が私への挑戦と等しい。

私の苛立ちは、怒りを通り越し、狂気へと変わっていく。

「貴様は、私にどこまで抗うつもりだ」

私はその髪を掴み、問うた。彼女は何も答えず、ただ冷たい眼差しを私に向けた。
その瞳は、出会って以降鋭さを増すばかり。

決意が全くブレていない。

「その決意、どこまで持つか試してやろう」

その日の夜、私は、紗枝を外へと連れ出した。

彼女の手首と足首には、未だ枷がつけられている。さらに彼女の目を布で覆い、強制的にある場所へと向かわせた。

そこは、鬼殺隊が隠れ家として使っていた場所だった。

私の命令を受け、牙羅はそこで鬼殺隊を襲い、その亡骸を喰らっていた。

紗枝の目隠しを外し、彼女の口に猿轡をはめ、声を奪い、目の前の惨状を見せつけた。

その瞬間、彼女の表情が苦痛に歪む。
責任感からかその顔を背けることもできず、ただその場に立ち尽くすのみ。

夫を失った悲しみか、
それとも、夫が成り果てた姿への絶望か…

その瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。

「見ろ、紗枝。これが貴様の夫だ。貴様が愛した男は、もうこの世にはいない。ここにいるのは、ただの鬼だ」
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