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その琥珀色の瞳に映るのは・・・

第3章 憎い相手を思い浮かべて?


彼の執拗で甘い口説き文句は、私との時間の間にどれほど聞かされたか。これか・・・口から砂糖を吐きそうだ。お屋敷でも仕事をされている様で、一日中べったりではないものの距離感もおかしい彼に翻弄されたままである。

私は彼が好きだ。その気持ちは嘘じゃない。でも、決断できないのも本当な気持ちだった。

拾って貰ってから四日目、上手く出来た菌を使っての今日はパン作りだ。イアンさんから小麦粉を貰って、バターロールを作ることにした。

そう・・・いつもの様にイアンさんは凝視中。そんな中、私は生地をこれでもかと捏ねて叩いての繰り返し。イアンさんがドン引きする程に。

「何か、腹を立てていたりするのか?その・・・親の仇をぶっ潰しているかの様な手捌きだが。」
「えっ?何もありませんよ?私の知っているパン作りはこんなものなんです。」

たぶん・・・。

二次発酵が終わった後は、焼くのはお願いした。あんな機能の揃ったオーブンレンジじゃないこの世界のオーブンは火加減が難しいからだ。

やがて、調理室にはパンの焼けるいい香りが充満していく。私はその間、ジャムつくりに没頭中だった。マーマレードといちごジャム作りは得意だったりする。

「イアンさん、四角い金属で出来た箱って作れますか?」
「それは、パン作りに必要なのか?」
「はい。」

絵を書けば、作って貰えることになった。何故か、十個も。一個で良かったのに。

オーブンからパンが出された。料理人さんたちから、生唾の飲む音が聞こえる。

「これくらいの焼き色でいいか?」
「はい。ありがとうございます。」

二人で一個を折半しては試食する。あ、イアンさんが目を見開いたまま固まっている。どうした?

「イアンさん?えっと、お口に合わなかったですか?」

私からすれば、馴染みのあるものだけど。

「・・・あ、心を持っていかれてた。何だ、このフワフワで仄かに甘いパンは。それにバターの香りがたまらない。」
「お口に合った様で良かったです。さ、こちらのジャムを乗せてください。」

あれ・・・また、固まった。

「あ、あの・・・お、俺に作り方をご教授ください。」
「えっ、そんな頭なんか下げなくても、お教え致しますよ?」
「ほ、本当ですか?これからは、師匠とお呼びいたします。」
「し、師匠だなんて止めてください。そんなことするなら、お教えませんよ?」

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