第6章 逢瀬その6
「はい、空いてますけど?」
「じゃ、飲みに行かない?」
「いいですよ…」
こうして二人は密かに交際を始めていったのだ。
他の人は誰も二人の交際を知らなかった。
美智は派遣の契約が切れると同時にこの電機メーカーを退職した。
その年に、龍一と同棲を始めたのだ。
そして、その年、龍一は今務めている某大手外資系の会社に転職したのだ。
なので、上司であった中嶋も美智の夫の事を誰だか知らなかった。
「山下さん、話し聞いてる?」
そう中嶋から言われて美智は我に返った。
「は、はい、聞いてますよ…」
「何か、考え事してる顔してたぞ?大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。中嶋さん…」
美智はそう言うと笑った。
美智は久しぶりに会う上司との飲み会を楽しんでいた。
中嶋が席を立ちトイレに行くという時だった。
いきなり中嶋がこう言ってきたのだ。
「山下さん、キスしていい?」
「え?…」
美智が返事を言い終わらないうちに唇を奪われてしまった。
周囲は酔っぱらいで溢れかえっている。