第6章 逢瀬その6
「中嶋さん、またグラスワイン飲んでいいですか?」
「あぁ、いいよ」
そう言うとまたボーイを呼んでオーダーしてくれた。
美智は運ばれてくるグラスワインをかなりのペースで飲んでいった。
二人は美智が勤めていた時の話しで盛り上がっていた。
「うちのグループで保養所に一泊で旅行した時は面白かったぁ…」
「はい、あの時は本当に楽しかったです」
美智は派遣社員であるにも関わらず他の社員と共に会社の保養所などにも連れて行ってもらっていたのである。
「あの時は、帰りにみんなと江の島水族館にいったんだよな?」
「はい、行きましたね。楽しかった…」
美智はその時のことを思い出していた。
あの頃は本当に仕事もプライベートも充実していて楽しかったのだ。
そんな頃だった。
今の夫の龍一と出逢ったのは。
実は龍一は美智が派遣で働いていた時に別の部署で働いていたのである。
会社自体は某大手電機メーカーである。
美智と龍一は働いていた部署が違うだけだった。
フロアーが違っていた。
美智が勤めていたフロアーは3階だったが、龍一が勤めていたのは4階だった。
二人は良くエレベーターで一緒になっていたのだ。
そんな龍一からある日声を掛けられたのである。
「山下さん、今晩空いてる?」